平成の民放テレビドラマ視聴率史上第1位を記録したドラマ「半沢直樹」。「倍返しだ!」で日本中を熱狂させたその続編が、ついに2020年4月スタートのTBS日曜劇場で放映される。

続編ドラマの原作となるのは、池井戸潤氏の『ロスジェネの逆襲』と『銀翼のイカロス』の2作品。そこで「半沢直樹イヤー」の幕開けを記念して、「週刊ダイヤモンド」での連載後、2012年に単行本が発売された小説『ロスジェネの逆襲』の3章までを全38回の連載形式で期間限定公開する。*2020年6月末まで

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 当初及び腰だったクライアントたちが次第に注目しはじめ、検索エンジンの利用率でトップに躍り出た起業二年後には、大手の一部上場企業を何社もクライアントに抱える有望株に成長していた。
 さらに晴れて上場を果たしてからは、止まるところを知らぬ快進撃で、瀬名はIT企業家としての評価を確たるものにしたのである。

 実際、右肩上がりの急成長が続いた。東京スパイラルの株価もうなぎ登り、百億円近い創業者利益を得た瀬名の将来は洋々たるものに思えた。

 ところが昨年、右肩上がりの成長にはじめて鈍化の兆しが現れ、それまで一枚岩でタッグを組んできた清田らとの関係に微妙な影響が出てきた。

 投資や金融といった新分野へ事業展開すべきだというふたりの主張に、ポータルサイトへの技術関連投資とサービスの拡充といった従来路線を堅持すべきだという瀬名の主張が真っ向からぶつかり、事あるごとに激しく対立するようになったのだ。

 焦りもあった。右肩上がりの急成長が鈍化した途端、株主が騒ぎ出し、マスコミが好き勝手なことをいいはじめる。

“経営に手詰まり感”“神話崩壊”──そんな新聞や雑誌の見出しが並ぶ。

 常勝に慣れた観客たちは、常に勝利を求めるものだ。

 清田も加納も、そうした周囲の騒音をシャットアウトすることができなかった。動揺し、浮き足立ち、新たな商売を求めて、さほど知りもしなければ、興味もない分野にまで進出を検討しはじめたのである。

 役員会で怒鳴り合いになったことは、一度や二度ではない。

 中でも、決定的な決裂の要因となったのは、清田が提案したベンチャー投資事業だ。

 将来有望なベンチャー企業に投資を行ない、株式公開時のキャピタルゲインで回収するビジネスモデルである。

 その事業計画を、瀬名はその場で一蹴した。そのとき──。

「こんなもん、ダメだ」

 決め付けた瀬名に、「理由もいわないでダメだとはなんだ」、と清田はいつになく激昂した。
 取締役会の席上である。

 出席していたのは、全社の部長以上、二十人。事の成り行きに全員が息を呑む中、瀬名は説明をはじめた。

「ウチには、投資ノウハウも、事業会社を育てるノウハウもないからだよ。決まってるじゃないか」
「ノウハウはある」

 清田はいった。「ウチはガレージ企業から、ここまで成長してきたんだぜ。これがノウハウでなくてなんなんだよ」

「お前、なにか勘違いしてないか」

 瀬名は冷笑を浮かべた。「ウチがここまで成長できたのは、最先端のウェブ技術があったからだ。成長のノウハウ? 笑わせるな。そんなもん、あるとすればひとつしかない。他社にない技術と競争力だ。だいたい、相手の技術力を見極める目がない奴に、投資なんかできやしないんだよ。お前、技術のことわかんないだろ」