雑然とした部屋。食卓に投げ出されている、冷め切ったコンビニ弁当――。

 深夜、帰宅したAさん(会社員)は、一瞬、独身時代のアパートに帰ってきたのかと目をこすった。だが、そこはまぎれもなく我が家。隣室では、妻と数ヵ月前に生まれたばかりの長男が寝息を立てている。Aさんは今朝やらかした妻との口喧嘩を思い出した。

 「朝飯もなし、夕飯もなし。おまけに洗濯した靴下もなしか。三食昼寝つきもいい加減にしろよ。誰のために頑張って働いていると思ってるんだ!」

 「あたしは子どもの世話で必死なの、くたくたなの!それなのに、あなたはちっとも協力してくれないじゃない。毎晩遅く帰ってきて、そっちこそえらそうなこと言わないで!」

 振り乱した髪と赤い目。こちらを睨みつけるその表情には、新婚時代の愛らしい面影はなかった。

 Aさんはため息をついた。この頃、食欲がないし、どうもよく眠れない。だが、明日の朝は重要な会議がある。寝不足で出席するわけにはいかない……。

「針のむしろ」と化した家庭

 夫婦の「第1次離婚危機」は、子どもの誕生後に訪れる。

 母子家庭などを対象に行った厚生労働省の調査によれば、離婚時の母親の平均年齢は 31.8 歳。その際の末子の年齢でもっとも多かったのは0~2歳で、なんと37%に上る。

 夫婦関係とうつの問題に詳しい、中村心理療法研究室の中村伸一氏は、「妻との関係悪化から、ストレスを募らせる男性が増えている」と指摘する。 

 「核家族化が進んだ現代は、実家の母親や姑が孫の世話をする機会が減った。おかげで妻は孤軍奮闘した揚句、疲れ切ってしまいます。そこへ夫が酒臭い息を吐きながら帰ってくるのですが、『疲れた、メシ、フロ、寝る』の一点張りで、愚痴もこぼせないし、家事も手伝ってもらえません。カリカリするのも無理はない。

 しかし、じつは夫のほうも『家族の食い扶持を稼がなければ』と、体に鞭打って頑張っている。残業、接待、上司のつきあいと、深夜まで帰れないことが多い。それなのに妻は子どもにかまけて家事をせず、たまに話せば自分を責め立ててばかり。