平成の民放テレビドラマ視聴率史上第1位を記録したドラマ「半沢直樹」。「倍返しだ!」で日本中を熱狂させたその続編が、ついに2020年4月スタートのTBS日曜劇場で放映される。

続編ドラマの原作となるのは、池井戸潤氏の『ロスジェネの逆襲』と『銀翼のイカロス』の2作品。そこで「半沢直樹イヤー」の幕開けを記念して、「週刊ダイヤモンド」での連載後、2012年に単行本が発売された小説『ロスジェネの逆襲』の3章までを全38回の連載形式で期間限定公開する。*2020年6月末まで

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 青山にある自宅のマンションに戻ると、母がひとり心配そうな顔で居間のソファにかけていた。
「ニュースで見たんだけど、大丈夫なの」

「大丈夫さ」

 瀬名はいい、ジャケットをソファに投げると、疲れ切った体を椅子に埋めた。

 内面の苛立ちを瀬名はこらえ、瞑目する。都心の一等地にあるマンションだが、大通りからは奥まっていて、部屋は静かだった。

 瀬名は、そのマンションに母とふたりで暮らしていた。

 父は、瀬名が高校二年生のときに死んだ。株投資で失敗し、巨額の借金を抱えた挙げ句の自殺だった。

 家も預金も、財産と呼べるものはすべて借金返済のために失った末のアパート生活。さらに給料までも一部を差し押さえられ、まさに赤貧の中での死だった。親族だけの簡単な葬儀を執り行ない、それが終わると、残された母と息子ふたりだけの質素な生活がはじまった。

 父が株で失敗するまで専業主婦だった母は、昼間スーパーで働き、夜は近くの飲食店で深夜まで働いて生活を支えてくれた。そんな母を少しでも楽にしてやろうと、瀬名も学校が終わると近くのコンビニで働き、土日のほとんどもバイトで埋めた。バイト代は一銭も遣わず母に渡し、家賃と食費、最低限の光熱費、それと瀬名の学費をなんとか捻出する。唯一の贅沢は、たまに母と近くのラーメン屋で食事をすることぐらいだった。

 父が死んでひとつだけよかったのは、それまで引きも切らずにあった債権者の督促が終息したことであった。

 死を選ぶ前の父は、深く懊悩し、ヒステリックになってちょっとしたことで瀬名や母に当たり散らしていた。

 電話が鳴るたび、ドアがノックされるたびに怯え、青ざめる父にとって、億に近い借金は、どうあがいても這い上がることのできない蟻地獄であった。

 少し前まで好景気に沸いていた世の中は、その間にもじりじりと失速していた。株価は値下がりを続け、「また上がるだろう」という世間の能天気な思惑と期待を裏切り、失速するグライダーのように値を下げていく。父の勤務先である不動産会社の業績に暗雲が立ちこめはじめたのもその頃だった。