平成の民放テレビドラマ視聴率史上第1位を記録したドラマ「半沢直樹」。「倍返しだ!」で日本中を熱狂させたその続編が、ついに2020年4月スタートのTBS日曜劇場で放映される。

続編ドラマの原作となるのは、池井戸潤氏の『ロスジェネの逆襲』と『銀翼のイカロス』の2作品。そこで「半沢直樹イヤー」の幕開けを記念して、「週刊ダイヤモンド」での連載後、2012年に単行本が発売された小説『ロスジェネの逆襲』の3章までを全38回の連載形式で期間限定公開する。*2020年6月末まで

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「あの電脳って会社の社長さんは知り合いなの?」

 そのとき母がきいた。

「会ったことはあるけど、親しいわけじゃない」

 瀬名はこたえた。「ほんと、ムカツク話だぜ」

 濃い疲労を滲ませている瀬名に、母は熱いお茶を淹れてくれた。

「悪いな、こんな時間に。母さん、もう寝たほうがいいよ」

 もう深夜零時を過ぎている。

「こんなときになんにもしてやれないから。私にできるのはこのくらいだけよ」

 母はいい、瀬名がかけているソファに自分も腰を下ろした。母は不安なのだ。そしてこの日の買収事件について、話してもらいたいと思っているのは明らかであった。母にとって、瀬名は人生で残された最後の希望だ。それは瀬名もまた理解している。

 東京スパイラルを立ち上げた瀬名が、上場を果たして巨額の創業者利益を得たときから、母の口癖は、「父さんが生きてたら喜んだろうねえ」、だった。

 瀬名もそう思う。だが、死を選んだことで、父はそのチャンスを放棄したのだ。

「でも、いきなり買収だなんて。洋介の意見もきかないで、どうしてそんな勝手なことするのかしら。失礼な話ね」

 パートとアルバイトの経験くらいしかない母は、少し怒っていた。

「生き馬の目を抜く世界だから仕方がないさ。清田と加納が電脳に株を売ったと思う」

「清田さんたちが?」

 目を見開いた母に戸惑いが広がった。それはそうだ。東京スパイラルが設立間もない頃、母はたまに東京に出てくると瀬名のアパートに泊まって料理を作ってくれた。それを三人で一緒に食べて遅くまで働いた日々はつい昨日のことのようだ。そのふたりと訣別したことは、いままで母には黙っていた。

「いいひとたちだったのに」母はいった。

「まあ、いろいろあって。あいつらにはあいつらの考え方があるんだろうけどさ。だけど、株を売るんなら、ひと言ぐらい、相談してほしかった」

 眉根を寄せた母は、「どうなるの、これから」と不安に瞳を揺らす。「買収に応じるつもりはないんでしょう」