アップル社のロゴPhoto:Reuters

 テクノロジーの世界でアップル社の地位がどう進化したかを理解するためには、同社の最重要幹部の1人が現在、コスト削減を追い求めてサプライヤーを苦しめる人物だということを頭に入れておく必要がある。

 調達部門担当副社長のトニー・ブレビンス氏(52)は、有利な条件を獲得するためであれば、ほとんど手段を選ばない。彼は、アップルのロビーで、製造業者たちを競争相手の目にさらしたり、UPSとの契約打ち切りの通知を、フェデックスを使ってUPS幹部に送ったりした。裁判記録や裁判の経過を知る人々によれば、彼はアップルと係争中の半導体メーカーに対する支払いを停止するよう下請け業者たちを説得し、このメーカーに80億ドル(約8760億円)の損害を与えた。

 アップルの経営手法の中でサプライチェーンは常に極めて重要な位置を占めていた。スティーブ・ジョブズやジョニー・アイブ氏の魔法のデザインほどではなくとも、ほぼ同等に重要だった。アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は、供給網を構築する際に、厳しい倹約精神を定着させた。

 今日のアップルにおいて、サプライチェーンはかつてない規模に達している。iPhone(アイフォーン)の売り上げが鈍化するとともに、新機能のコストが増加しているため、主力製品を通じて利益を生み出す上で、費用を厳しく抑制することが極めて重要になっている。その間にアップルは、サービス分野の売り上げへの依存度を一層高める方向へと転換を進めている。

 その結果、先見性のある経営幹部を擁する企業という同社のイメージは低下し、高い利益率を確保しようとする巨大事業のイメージが強まっている。こうした展開の中で中心的役割を果たしているのが、調達部門副社長のブレビンス氏だ。同氏はターミネーターならぬ「ブレビネーター」として知られる。

 ブレビンス氏は、ハワイで購入した観光客向けのアクセサリーを何年間も身に付けていた。それはプカ貝の貝殻でできた安物の首飾りだった。彼は5ドルで売られていたその首飾りを2ドルに値切って買った。彼の調達チームで長年働いたヘレン・ワン氏は、この首飾りについて、どんなものでも定価で買ってはならないことを彼の部下たちに思い出させたと語った。

 ワン氏は「彼が自分の買い物についてこんなふうならば、会社のお金をどう使うかは容易に想像できる」と述べている。

 ブレビンス氏の手法は、抜け目のない交渉だけにとどまらない。彼は、世界各国からの注文に不足なく対応する策として、製造業者らに納入期限順守を強いた。彼は、アップルが納入業者の半導体の代わりに自社製品の使用を開始するといった悪いニュースを伝える役目を引き受けることで、納入業者を管理した。

 ブレビンス氏の指揮の下で、アップルはここ数年、インテル製の最新の半導体を1個10ドルで調達している。IHSマークイットのデータによれば、これはサムスンがクアルコムに支払っている額の約半分だ。

 ブレビンス氏は、アップルの許可を得ていないとして、具体的なコメントを拒否した上で、「私は会社に忠実な人間だ」と語った。