1月21日、記者会見に臨んだ
日本銀行の黒田東彦総裁 1月21日、記者会見に臨んだ 日本銀行の黒田東彦総裁 Photo:Reuters/AFLO

 日本銀行が先日公表した1月の「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」によると、実質国内総生産(GDP)成長率は、政府の経済対策を主因として、小幅だが全般に引き上げられていた。しかし、インフレ率(生鮮食品を除く消費者物価指数前年比)は逆に、2019、20、21年度の全てで0.1ポイントずつ下方修正された。

 一般的には、成長率予想が上向けばインフレ見通しも引き上げられる。だがそうなっていない。日銀の政策委員は、あえて強気の予想を提示して国民のインフレ予想を鼓舞することに疲れてしまったようだ。それは正しい方向性に見える。無理筋の予想を示し続けても信認が失われるだけだからだ。

 13年春の異次元金融緩和策の開始以降、政策委員会は数年後のインフレ率が目標の2%近辺に到達するという予想を繰り返し発表してきた。だが、それらは時間がたつとともに、現実に収斂する形でいつも大幅に下方修正されてきた。中央銀行が高めのインフレ予想を示しても、家計や企業がそれに合わせた行動を取るということは現実には起きなかったといえる。

 例年4月の展望レポートには、2年後のインフレ予想が初登場する。この4月に、22年度予想が出ることになる。黒田東彦・日銀総裁の任期における実質上の最終年度だ。だからといって強引に目標の2%に近い見通しを提示することは、もはやないだろう。

 昨年4月に初出となった21年度予想は1.6%でスタートし、この1月時点でそれは1.4%へ引き下げられた。この先も下方修正されそうだ。そのため、4月に初出の22年度予想は高くても1.6%、より「自然体」になるならば1.5%以下と推測される。

 本来、予測期間内のインフレ目標達成が難しそうなら、中央銀行は追加緩和策を行う。しかし、効果と副作用を比較考量すると今の日銀には有効な手段がほとんど残されていない。かといって、インフレ目標の引き下げや撤回を今の日銀は全く考えていない。