アップルを支える「デザイン力」というリソース

 一例としてアップルの「デザイン力」を考えてみよう。アップルにとってそのデザイン力が長い間、高い業績の源泉の一つであったことは、皆さんにも賛同いただけるだろう。

 そのアップルが2011年に、韓国のサムスン電子を相手に、世界中で訴訟を起こしたことがある。同社のスマートフォンGALAXYのデザインが「iPhoneのデザインに酷似している」というのが理由だった。そしてこの訴訟の最中に世界中で話題になったのが、2012年7月のイギリス高等法院でコリン・ブリス判事が、「GALAXYは(表面上似せようとしていても)、アップル製品のデザインが持つ控えめで究極のシンプルさはない。アップル製品ほどクールでない」という理由で、アップルの提訴を退けたことだ。

 このユニークな判決理由は、アップルの「クールなデザインを生み出す力」の模倣困難性を象徴する事例といえる。実際、同社のデザイン力は、模倣困難性の条件によく当てはまる。例えば、同社では「デザインとはいわゆるプロダクトデザインだけでなく、『あらゆる顧客との接点のデザイン』を指す」とされる。アップルストアやアップルミュージックのデザインはその代表だ。

 すなわち同社のデザイン力は製品開発部門だけでなく、会社全体に埋め込まれ、複雑な人と人、組織と組織の関係性の中で、時間をかけて蓄積されてきたものなのだ。したがってそれは複雑で、因果関係もわかりにくい。仮に当時、同社のデザイン担当の上級副社長を長らく務めたジョナサン・アイブ一人をライバル企業がヘッドハントしても、アップルのデザイン力そのものは模倣できなかっただろう。

※1)_やや専門的になるが、筆者の認識では、標準的な経済学では「技術はリソースではなく、生産関数の形状に対応する」ととらえることが多い。図表1で言えば、図内の曲線の形状がそれに当たる。他方、経営学では技術はリソースの一部と考える。すなわち図表1の横軸である。これは、経済学と比べて経営学の方が技術を所与として考えず、その変化や向上メカニズムに強い関心があるからかもしれない。では経営学にとって「図表1の曲線には何が相当するかは」は難しいところだが、本章後半で述べるケイパビリティがそれに近いといえるだろう。

※2)_Barney, J. B. 1991.“Firm Resources and Sustained Competitive Advantage,” Journal of Management, Vol.17, pp.99-120.

※3)_本章では4本の論文に絞るが、他にも企業リソースの視点を発展させた論考は多くある。例えば、Rubin, P. H. 1973. “The Expansion of Firms,” Journal of Political Economy, Vol.81, pp.936-949. や Lippman, S.A. & Rumelt, R. P. 1982. “Uncertain Imitability: An Analysis of Interfirm Differences in Efficiency Under Competition,” Bell Journal of Economics, Vol.13, pp.418-438. そして Rumelt, R. P. 1984.“Toward a Strategic Theory of the Firm,” Competitive Strategic Management, Vol.26, pp.556-570. などだ。さらに「見えない資産」(invisible assets)を打ち出したItami, H. 1987. Mobilizing invisible assets, Harvard University Press.やコア・コンピタンス経営を主張した Hamel, G. & Prahalad, C.K. 1994. Competing for the Future, Harvard Business Review Press.(邦訳『コア・コンピタンス経営』日本経済新聞社、2001年)も重要だ。特に後者2本はBarney(1991)と並んで企業リソースの重要性を説いて実務家にも大きな影響を与えてきた。他方で、本章の焦点であるBarney(1991)の命題により直接結び付いているのは、本文で紹介する4本だと筆者は理解している。

※4)_『企業成長の理論[第3版]』(ダイヤモンド社、2010年)

※5)_ペンローズがRBVに与えた影響については、Rugman,A. M. & Verbeke, A. 2002.  “Edith Penroses’s Contribution to the Resource-Based View of Strategic Management,” Strategic Management Journal, Vol.23, pp.769-780. を参照。

※6)_Wernerfelt, B. 1984. “A Resource-Based View of the Firm,” Strategic Management Journal, Vol.5, pp.171-180.

※7)_より正確には、このポイントは必ずしもそうとは限らないかもしれない。企業同士が異なるリソースを持っていても、結果として同じアウトプットをつくる可能性があるかもしれないからだ。これを「等結果性」(equifinality)といい、経営学でも議論が行われているが、本章の中心トピックではないので割愛する。詳しくは、例えば、注12で紹介する Priem & Butler (2001)等を参照。

※8)_Barney,J. B. 1986. “Strategic Factor Markets: Expectations, Luck, and Business Strategy,” Management Science, Vol.32, pp.1223-1370.

※9)_Dierickx,I. & Cool, K.1989. “Asset Stock Accumulation and Sustainability of Competitive Advantage,” Management Science, Vol.35, pp.1504-1511.