読者の皆さんはACTAをご存知でしょうか。「偽造品の取引の防止に関する協定」という国際条約の略語ですが、この1週間くらいの間、日本のネット上ではこのACTAという言葉が非常に盛り上がりました。それを見ていると、ネットの危うさを改めて感じざるを得ません。

日本のネット上にも
反対運動が伝播した経緯

 最初にACTAに関する経緯を簡単に整理しておくと、この条約は、中国など新興国での模倣品や海賊版の横行を防止するための国際的な枠組みが必要という日本の提案(2005年)に基づいており、2010年に関係国間で条約の最終条文が策定されました。

 条文策定の過程がほとんど公開されなかった点は元々批判されていたのですが、欧州でACTAを問題視する動きが強まったのは今年に入ってからです。

 今年1月に米国で、違法コンテンツのダウンロード抑制を狙った2つの法案(PIPA法案とSOPA法案)が議会に提出されました。これに対してネット企業やネットユーザが、両法案は“ネットの自由を侵害する”、“ネットのイノベーションを阻害する”という大義名分の下、ネット上で激しい反対運動を展開したところ、米国議会での両法案の審議は無期延期となりました。

 ちょうどその頃にEU及びEU内の加盟国がACTAに署名したのですが、ACTAはネット上での知的財産権侵害も対象となるため、米国でのSOPA/PIPAへの反対運動が飛び火する形で、欧州でACTAへの反対運動が一気に盛り上がりました。その結果、7月には欧州議会がACTAを大差(賛成39票、反対478票、棄権146票)で否決するに至ったのです。

 一方で、日本では、今月に入って参議院でACTAが可決された(参議院先議のため、次に衆議院でも可決することが必要)ために、この1週間くらいで急速にネット上でACTA反対運動が盛り上がったのです。ある意味で、米国→欧州と波及した知的財産権侵害を規制する制度への反対運動が、日本のネット上にも伝播したと見ることができます。