老後の使い道がわからないお金を必死に貯め続ける「真のリスク」人生100年時代に「老後」に備えて考えておくべき、最も重要なこととは Photo:Adobe Stock

「人生100年時代」といわれるなか、老後の生活費への不安は大きい。2019年6月の金融審議会の報告書で「老後資金には2000万円が必要」という試算が公表され、大きなニュースになった。そんな中、ベストセラー『定年後』の著者・楠木新氏は、今年1月、おカネにフォーカスした『定年後のお金』を上梓した。家計の管理方法や見直し、資産運用の基本的な考え方について提言する一方、定年後に社会と関わりを持ち、本当にやりたいことに出費して人生を楽しむ生き方も示す。本のエッセンスを数回に分けて紹介する。

定年後のおカネを運用に回す
「使い道」がわからない人々

 この6、7年間、定年退職前後の人を中心に取材を続けてきたが、ずっと気になることがあった。一定額の退職金や年金を受け取っているにもかかわらず、自分の楽しみのためにお金を使っているイメージが湧かない人が少なくなかったのだ。

 もちろん、老後の生活費や介護費用などを勘案していることもわかる。子供や孫の世代に財産を残したい気持ちもあるかもしれない。ただそれにしても、「苦労して働いて貯めたお金を有効に使わないまま死んでしまうリスク」もあるのではないかと何度か感じた。しかし繰り返し話を聞くなかで、「ひょっとすると、彼らはお金をどのように使えばよいのか分からないのではないか」という仮説にたどり着いた。

 家計財産の管理や運用の相談に乗っている専門家に、この仮説をぶつけてみると、「会社の仕事一筋で働いていた人はうまくお金を使えません」とこともなげに答えてくれた。使い道が特にないので、投資・運用に向かう人が多いそうだ。

 東京にある日本銀行金融研究所の貨幣博物館のパンフには、お金の特徴として以下の3つを挙げている。

(1)さまざまなものと交換できる
(2)さまざまな人の間で誰でも使うことができる
(3)使いたいときまで貯めておくことができる

 誰もが使えて、さまざまなものと交換できること(交換価値)が、お金の本質であろう。ただ、お金には賞味期限がなく、保存がきく。そのためさきほど紹介した定年退職者のように、お金を貯めること自体が自己目的化することもある。