企業の競争には3種類の型がある

 さて、「両方が大事」というある意味当たり前の結論が第1の決着とすると、より重要なのは第2の決着の方だ。それは「SCPとRBVは、そもそも前提としている『競争の型』が異なる」というものだ。両理論はどちらも重要だが、その「程度」は企業の置かれる競争環境によって異なる。そしてその違いを明確にしたのは、実は当のバーニーだ。彼が有名な1991年論文を発表する5年前、1986年に『アカデミー・オブ・マネジメント・レビュー』(AMR)に発表した論文なのである。

決着2:そもそも「競争の型」が異なる

 バーニーは1986年にAMRに“Types of Competition and the Theory of Strategy”というタイトルの論文を発表した。この論文は彼の1991年の論文ほどは知られていないかもしれない。しかし、筆者はこの論文の意味はとても大きく、特にビジネスパーソンへの示唆が大きいと考えているので、あえて紙幅を割いて、私論も展開しながら紹介したい。

 本論文でバーニーは「企業の競争には3種類の型がある」と述べている(※3)。まず、そのうち2つを解説しよう。

(1) IO型の競争(IO competition)

 経済学の産業組織論(industrial organization)に基づく競争の概念を、バーニーは「IO型の競争」と呼ぶ。これは、産業・競争環境の構造要因が競争に影響を及ぼす状況を指す。IO型の競争では、競争環境が完全競争から乖離するほど、そこにいる企業の収益性が高まる。

 したがってここで有効な戦略は、環境の構造そのものを変えることだ。すなわち、参入障壁を築いたり、差別化で企業グループ間の移動障壁を高めたりすることである。これは第1章、第2章で紹介したSCP戦略そのものであり、したがってSCPは、IO型の特性を持つ競争環境によくフィットするのだ。

 例えば、米国のシリアル業界やコーラ業界は、長きにわたってIO型の競争に近かったといえるだろう。この業界の大手既存企業は、多額の広告費を支出し、小売業者と密接な関係を築いて店頭の棚スペースを占有するなどして、新規企業に対する参入障壁を引き上げて寡占状態を保ってきた。化学産業なら、例えば1970年代初頭にデュポンはチタニウム・ダイオキサイド市場への新規参入を阻むために、あえて過剰投資を行ってきたといわれる。これも典型的なIO型競争における戦略といえる。

(2)チェンバレン型の競争(chamberlainian competition)

 第2の競争のタイプは、チェンバレン型である。1930~1950年代に活躍したハーバード大学の経済学者エドワード・チェンバレンが提示した、いわゆる独占的競争(monopolistic competition)モデルに基づいた競争の考え方だ。

 このモデルは、製品・サービスが企業ごとに差別化されている状況を、所与として組み込んでいるのが特徴だ。他方で産業への参入障壁はないので、新規参入企業も差別化された製品・サービスを持って参入できる。したがって、企業同士は、差別化されながらも厳しい競争をすることになり、結果として各企業は超過利潤がゼロにはならないものの、完全独占よりははるかに収益性が低くなる(超過利潤、完全独占などについては、第1章を参照)。

 チェンバレン型競争はIO型競争と共通点が多い。というよりも、経済学的には独占的競争はそもそも産業組織論の一部であり、先に述べたように完全競争と独占の間に位置付けられる状態ともいえる。しかし、それでも両者は「その強調するポイントが違う」というのがバーニーの主張だ。

 先に述べたように、IO型の競争は、市場構造・競争構造に障壁をつくって「ライバルとの厳しい競争を避ける」ことに主眼を置く。差別化はその一手段である。他方でチェンバレン型では、そもそもすべての企業がある程度差別化されているのは前提であり、問題はその厳しい競争のなかでどのように「勝つ差別化」をするか、ということになる。そしてチェンバレンやバーニーによれば、そのために重要なのは企業の持つ技術、知識、ブランド、人材などのリソースなのだ。まさにRBVの主張である。すなわちRBVと相性がよいのはチェンバレン型の競争なのだ。

(図表1)拡大画像表示

 図表1は、ペンシルバニア大学のウィトールド・ヘニスツとメリーランド大学のベネット・ゼルナーが2012年に『アカデミー・オブ・マネジメント・パースペクティブ』に掲載した論文の表をもとにまとめたものだ。

 このようにSCPとRBVの有効性は、事業環境がどのような「競争の型」かによって異なる、と考えられるのだ。

 次回は競争の型(3)と、日本企業の戦略について解説していく。

※1)_競争戦略論の定義・範疇については、序章を参照。

※2)_McGahan, A. M. & Porter,M. E. 1997.“How Much Does Industry Matter, Really?” Strategic Management Journal, Vol.18, pp.15-30.

※3)_より正確には、Barney, J.B. 1986. “Types of Competition and the Theory of Strategy: Toward an Integrative Framework,” Academy of Management Review, Vol.11, pp.791-800. は各理論の概念的な区分をしているだけで、「現実の産業・業界においてどの競争の型が強いかの濃淡が異なる」ことを明示的に述べているわけではない。しかしこの点は、現実の業界間の違いを見れば明らかであろう。