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肖像画の人物、名前はご存知ですよね?
そう、レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519)です。

ダ・ヴィンチはルネサンス期にイタリアで活躍した人物で、《モナ・リザ》の絵でよく知られています。1974年に東京国立博物館で開催された「モナ・リザ展」には、2ヵ月間でなんと150万人以上が駆けつけたといいますから、日本でも知らない人はいないといっていいレベルの偉人です。

ここで改めて宣言するのもおかしいのですが、ダ・ヴィンチは正真正銘のアーティストです
しかし、それはダ・ヴィンチが「超有名だから」ではありません。また、《モナ・リザ》をはじめとする彼の作品が卓越した描画力で美しく描かれているからでもありません。

ダ・ヴィンチがアーティストであるといえるのは、彼が自分の「興味」に忠実に従い、「探究」を行うことで、「表現」にまでこぎつけた典型的な人物だからです。

ダ・ヴィンチの「興味」は、「目に見えるものすべてを把握する」ということにありました。彼は、師匠から教わった絵の描き方や、書物にある知識には満足できませんでした。だからこそ、自分の目と手を使って自然界を徹底的に観察し、あらゆる事象を理解しようとしたのです。

「なんで海は青いの?」「雲の上はどうなっているの?」と自由奔放な疑問を投げかけて大人を困らせる小さな子どものように、ダ・ヴィンチは興味の赴くままに「探究」を進めていきました。

その「探究」はアートの領域に留まらず、科学の分野へも横断します。彼は、30体以上の人体を解剖し、膨大な数のスケッチと研究で人体の構造を探りました。また、ライト兄弟が飛行機を発明する4世紀も前に、昆虫や鳥の飛翔原理の分析に没頭し、ガリレオの地動説以前に、「太陽は動かない」という言葉を自身の研究ノートに記しているというから驚きです。

彼がやっていたのは、まさに「自分の内側にある興味をもとに、自分のものの見方で世界をとらえ、自分なりの探究を続ける」というアート思考のプロセスそのものです。

ダ・ヴィンチのモチベーションは「表現の花」を咲かせることよりも、「探究の根」を伸ばす地下世界の冒険のほうにありました。

それゆえ、7000ページ以上にも及ぶスケッチや研究があるにもかかわらず、完全に仕上げた絵画作品は生涯でたったの9点ほどともいわれています。
しかし《モナ・リザ》をはじめとする彼の「表現」は、500年以上経ったいまでも独自の輝きを放ち、世界中の人々に影響を与え続けています。