橘玲の日々刻々 2020年2月27日

日本で痴漢が大量発生するのは満員電車だから。
男はいったん性的な刷り込みが行なわれると生涯逃れられなくなる
【橘玲の日々刻々】

小児性犯罪者は「学歴が低い」傾向

 小児性犯罪者のプロフィールは多様だが、日本でも欧米でも「学歴が低い」傾向が指摘されている。斉藤氏のクリニックの来院者は中卒・高卒で約半数を占め、「平成27年 犯罪白書」では小児わいせつ型、小児強姦型ともに中卒・高卒が8割になる(日本の刑法では13歳以下≒小学生以下を「小児」としている)。 

 ベストセラーとなった宮口幸治氏の『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)でも、児童精神科医として医療少年院に勤務した体験から、幼児に強制わいせつをする性非行少年の特徴として「ケーキを三等分できない」などの認知能力に欠けていることが挙げられていた。

 認知能力=知能が低いと、なぜ性的関心が小児に向かうのか。それは大人の女性が怖いからだ。宮口氏が面接したなかには、「女の子は8歳までしか興味ない。9歳を超えると怖い」と語る少年もいた。

 斉藤氏も子どもにしか性的関心のない“真性タイプ”の患者について、「成人女性のことを「怖い」といい、恐れのようなものを抱いている者もいる」と述べている。彼らに共通するのは機能不全家族(親がなんらかの依存症問題を抱えている)、いじめ被害体験、同年代の女性との挫折経験などの「逆境体験」だとされるが、こうした「逆境」の多くは「知能の低さ」から説明できるのではないだろうか。

 小児性犯罪者のなかには、大学に入れる程度の知能をもつ者もいる。斉藤氏の指摘で重要なのは、職業別では、クリニックの受診者の6割弱が教育関係の職業を含む有職者となっていることだ。なぜ教育関係(教員をはじめとする学校職員、学童クラブのスタッフ、保育士、塾講師、スポーツインストラクター、ガールスカウトやボーイスカウトのスタッフ)なのかというと、子どもたちに対して「教師/指導者」として特権的な地位に立つことができるからだ。

 カトリック(ヴァチカン)が小児への性的虐待スキャンダルで大きく揺れているが、これは聖歌隊など少年が献身するカトリック教会の神父になることが(賢い)小児性愛者にとって理想的な環境だからだろう。

 同様の問題を「教育」は抱えている。日本のように教師に大きな権力が与えられる社会では、とりわけ小児性愛者の侵入を避けることは難しい。それにもかかわらず、女子児童への強制わいせつ行為で逮捕された小学校の教員が、別の小学校でも類似の事件で逮捕されていた。教育委員会から懲戒処分を受けて依願退職したが、教員免許を失効することはなく、別の自治体で復職していたのだ。「教育現場では性加害を隠蔽している」との斉藤氏の指摘は重い。

 林奕含(リン・イーハン)の小説『房思琪(ファン・スーチー)の初恋の楽園』(白水社)では、台湾を舞台に、美しく利発な13歳の少女が、50代の有名塾講師に性的関係を強要される。少女は、この状況を受け入れる唯一の方法は男を愛することだと考え、「初恋の楽園」という地獄に落ちていく。作者の林奕含は本書の出版後、26歳で自殺した。「師と弟子」の関係を性的に悪用するのは、日本だけでなく儒教的文化の強い東アジアで広く行なわれているのかもしれない。

「二次元ポルノ」は被害者はいないから表現の自由を優先すべき

『「小児性愛」という病』で斉藤氏は、児童ポルノが小児性犯罪の元凶であるとして法による禁止を求めている。最後に、これについて私見を述べておきたい。

 小児性犯罪者の治療を行なう斉藤氏が、児童ポルノに危機感をもつのは当然だ。なぜなら、加害者のほぼ全員が児童ポルノを消費していたのだから。

 だがここには、斉藤氏も認めているように、表現の自由との深刻な衝突がある。実際の小児をモデルにするのは論外としても、「アニメやゲームのような「二次元ポルノ」なら被害者はいないのだから、自分のお金でどのような「表現」を楽しもうとも本人の自由だ」との反論には説得力がある。――あいちトリエンナーレ事件で「国家/行政が表現の自由に介入することをいっさい認めない」と主張した「リベラル」も、当然、(被害者のいない)児童ポルノを擁護するにちがいない。

 この反論を覆すには、児童ポルノが社会に対して、表現の自由を上回る害悪を生じさせていることを具体的に示さなければならない。では、実際にはどうなのだろうか。

 このやっかいな問題についてベリングは『性倒錯者』で、生物学者ミルトン・ダイヤモンドが2011年に発表した報告を紹介している。

 チェコは1948年から89年の共産主義体制下であらゆる種類の性表現をきびしく禁止していた(『プレイボーイ』や通俗恋愛小説すら禁じられていた)が、89年のビロード革命によって自由経済に移行したことでポルノ産業が急成長し、児童ポルノを含め、あらゆる種類のポルノがかんたんに、しかも合法的に入手できるようになった。

 そこでダイヤモンドは、革命前の17年間の性的児童虐待の割合を革命後の18年間(1989-2007)の割合と比較し、「女性に対する性犯罪と同様、報告されている性的児童虐待の件数が激減した」ことを明らかにしたのだ。性犯罪以外の犯罪の割合は革命後の同じ期間に「増加」しており、データに見られる性犯罪の減少は、政治的変化にともなって一般的な幸福度が上昇したことでは説明できない。

 ベリングは「ダイヤモンドのデータは一目瞭然で、説明を要しない。そのデータを疑う理由もないし、一般大衆へのポルノ提供による性的カタルシス効果についての彼の仮説を疑うだけの理由もない」と述べる。それに加えて、「日本やデンマークにおける性的虐待の統計を分析している研究者も、児童ポルノが合法的に入手できることが性的児童虐待の全体的な割合の減少と関係していることを見出した」として、日本人研究者の参加した論文が紹介されている。(Milton Diamond, Ayako Uchiyama, “Pornography, rape, and sex crimes in Japan” International Journal of Law and Psychiatry, 22,no1(1999)).

 児童ポルノに対して、犯罪を誘発するリスクよりも抑止効果の方が大きいという見解を支持するのはベリングだけではない。イギリスの心理学者ジュリア・ショウは「刑事事件の専門家として助言を与え、警察や軍で研修をおこない、犯罪者の更生プログラムの評価をおこなってきた」が、『悪について誰もが知るべき10の事実』(講談社)のなかで、小児性愛について私たちが理解すべきこととして以下の4つを挙げている。

1)すべての小児性犯罪者が小児・思春期性愛者というわけではなく、すべての小児・思春期性愛者が小児性犯罪者というわけではない。
2)小児性愛者が知らない人とは限らない(加害者の多くは家族、隣人、家族の友人などだ)。
3)児童性的虐待の加害者のほとんどは性的虐待を受けたことがない(虐待の連鎖を裏づける科学的証拠はほとんどない)。
4)オンラインで児童ポルノを観る人は大勢いるが、彼らはオフラインで小児性犯罪行為をしたりしない。

 ショウが取り上げるのは2015年、公衆安全研究者ケリー・バブチシンらが行なったオンラインおよびオフラインの小児性犯罪者の特徴に関するメタ分析で、「オンライン児童ポルノ犯罪以上の犯罪行為をしていない犯罪者は、(児童ポルノ犯罪も子どもに対する接触犯罪も)どちらもおこなう犯罪者や、オフラインでの小児性犯罪者とは違う」ことがわかったという。

 たんに児童ポルノを消費する者(小児性愛者)と、一線を越えて小児への加害者となる者(小児性犯罪者)はなにがちがうのか。これは原田隆之氏、斉藤章佳氏、宮口幸治氏のいずれもが指摘していることだが、加害者=犯罪者は認知が歪んでいるのだ。

『「小児性愛」という病』には、加害者の典型的な認知の歪みとして、「被害者の自己責任にする」「子どもの無知、弱さを利用する」「“純愛”だと主張する」「子どもを“飼育”しようとする」「小児性愛を“権利”だという」などが挙げられている。逆にいえば、認知が歪んでいない小児性愛者は小児性犯罪者にはならないのだ。――これがショウの主張になる。

 もちろん私には、このやっかいな問題についていずれの主張が正しいのか審判を下すことはできない。だが「寛容」と「多様性」を掲げるリベラルな社会を支持するのであれば、私たちはパラフィリア(性倒錯)という人間性のもっとも暗い部分からいつまでも目をそらせることはできないのではないだろうか。
 

 

橘 玲(たちばな あきら)

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 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)、『もっと言ってはいけない』(新潮新書) など。最新刊は『上級国民/下級国民』(小学館新書)。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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