クーポンを発行すれば、顧客は自ら「値下げ購入」か「定価購入」を選択する

 小売業やファーストフードで使われるクーポン券にも、同様の効果がある。この世にはハンバーガーを「少しでも安く食べたい」という客層と、「ハンバーガー程度なら価格は気にしない」客層が混在している。前者の例は、節約志向のファミリー層などで、後者の例は、会社帰りの懐に余裕のある独身ビジネスパーソンなどだろうか。したがってファーストフード店は客それぞれに違った価格を提示できればいいのだが、顧客それぞれの「ハンバーガーへの価格意識」は当人にしかわからない私的情報だから、それは不可能だ。

 しかし、クーポンを使うとこの情報の非対称性はいっきに解消できる。なぜなら、価格に敏感なファミリー層は普段から新聞折り込みやアプリでのクーポン情報をマメにチェックしていて、それを持って食べに来るからだ。言うなれば、顧客が勝手に自分でクーポン払いという「値下げ」をしているのと同じだ。他方で仕事帰りの独身ビジネスパーソンは、クーポンなど気にせずにそのままの価格でハンバーガーを食べるだろう。これは、顧客の方が「高い価格」をみずから選んでいるようなものだ。

顧客に選択肢を与える「スクリーニング」

 このように複数種類の商品を提示したり、クーポン券を提供したりするなど「顧客に選択肢を与える」ことで、顧客が勝手にみずからの私的情報に基づいた行動を取ってアドバース・セレクションが解消されるメカニズムを、スクリーニングと呼ぶ。先のノーベル賞受賞学者のなかでも、スティグリッツが保険の事例などを使って発展に貢献した理論である。

 実は、スクリーニングは経済学で様々な事例での研究が進んでいるが、経営学ではその応用が十分に進んでいない。しかし、経営学の範疇であるビジネス取引にも、スクリーニング機能を持つ企業行動は潜んでいるはずで、これはフロンティアの研究課題といえるだろう。皆さんも応用例を考えてみてはいかがだろうか。