東芝機械現在、旧村上ファンド系の投資会社から敵対的買収を仕掛けられている東芝機械=静岡県沼津市で撮影 Photo by takeshi Shigeishi

旧村上ファンド系の投資会社が、東芝機械に対して実施中のTOB(株式公開買い付け)について撤回を模索している。コロナショックによる株価急落が背景にあるとみられ、一転して窮地に陥った旧村上ファンド側は自ら仕掛けたTOBを回避すべく奇策に打って出た。(ダイヤモンド編集部 重石岳史)

旧村上ファンド側がTOB撤回を打診、その理由は?

「TOB回避の可能性について話し合いたい」

 東芝機械の関係者によると、旧村上ファンドを率いた村上世彰氏の強い影響下にあり、東芝機械の大株主である投資会社のオフィスサポートから最近、こんな打診が寄せられた。

 東芝機械に対して現在TOBを実施しているのは、このオフィスサポートの子会社であるシティインデックスイレブンス(以下シティ)だ。シティは1月21日に東芝機械のTOBを開始し、4月16日を期限に43.82%の株式取得を目指している。

 シティ側が示した東芝機械株の買い付け価格は1株あたり3456円だ。TOB実施決定日(1月20日)の前営業日(17日)終値3115円に10.95%のプレミアムを加えた。この公表を受けて東芝機械株は一時3705円まで急騰している。

 ところがその後、新型コロナウイルスの感染拡大による景気後退懸念から、株式市場は総崩れとなる。東芝機械もその例に漏れず3月に入って株価が急落し、3月19日の終値は1867円に沈んだ。買い付け価格3456円とのかい離は大きい。

 このままTOBが成立してしまえば、旧村上ファンド側はその瞬間から多額の含み損を抱えることになる。そこでTOBを回避するために打った奇策が、東芝機械に対する120億円超の自社株買い要求だ。

 敵対的買収の危機にある対象会社が、TOB期間中に資産や現金を吐き出し、買収の意欲を削ぐ手法は「クラウン・ジュエル」と呼ばれ、買収防衛策の一つとしてしばしば用いられる。

 最近では、前田建設工業に敵対的TOBを仕掛けられた前田道路が、500億円以上の特別配当を表明したことが話題になった。結果はTOB成立に終わったが、前田道路が特別配当を実施した狙いは、クラウン(王冠=前田道路)に組み込まれているジュエル(宝石=現金)を取り外すことで、王冠の魅力を低下させ、前田建設の買収意欲を削ぐことにあった。

 このように通常、クラウン・ジュエルは敵対的TOBを仕掛けられた会社が使う防衛手段だ。だが、TOBの実施主体であるシティが、逆に東芝機械(王冠)に現金(宝石)を吐き出すよう要請しているのは、どういうことか。

 その狙いはTOBを撤回することにある。

 実はTOBは、いったん開始されると原則として撤回や買い付け価格の引き下げが認められない。恣意的なTOB撤回などが許されれば、TOBに応じようとする株主が不安定な立場に立たされるためだ。

 撤回が例外的に認められるのは、純資産の10%以上が減少し対象会社の財産に関する重要な変更が行われた場合だ。120億円以上の自社株買いはそれに該当する。シティ側がTOBを撤回するのに十分な理由となるというわけだ。