「インセンティブ」により情報の非対称性と目的の不一致を解消する

 プリンシパル=エージェント間の「情報の非対称性」の解消を目指すのがモニタリングだったのに対して、「目的の不一致」の解消を目指すのがインセンティブによる解消法である。

 本書では、「インセンティブ」という言葉の定義を明らかにしないまま使ってきた。しかしこの意味合いをつかむことは、エージェンシー理論を理解する上で重要だ。

 インセンティブは日本語では「誘因」と訳される。あるいは「ある条件下で、プレーヤーが持つ特定行動への動機づけ」「やる気を起こさせるもの」と理解していただきたい。インセンティブによる解消法とは、それまでプリンシパルと目的の不一致があったエージェントに、プリンシパルと同じ目的を達成する(やる気を起こさせる)組織デザイン・ルールを与えることだ。

インセンティブの代表例、「業績連動型報酬」や「ストックオプション」

 いちばんわかりやすいのは、従業員・部下の管理への「業績連動型の報酬」の導入だ。先にも述べたように、上司(プリンシパル)は部下(エージェント)に懸命に働いてほしいが、部下が懸命に働くとは限らない。しかし、部下の給与が歩合制になって自身の業務成績と連動するなら、部下には懸命に働くインセンティブが出てくる。

 コーポレートガバナンスの場合は、経営者が業績連動型の報酬を受けることや、ストックオプションの付与がインセンティブの代表的な手段である。ストックオプションとは、「数年後に自社の株価があるレベルまで達すれば、その株を(あらかじめ決められた低い金額で)購入できる」権利のことだ。ストックオプションを持つ経営者は自社の株価を増大させるインセンティブを持つので、プリンシパルである株主と利害の一致が期待できる。日本でもストックオプション制度は普及しており、現在は東証一部上場企業の32.0%、東証マザーズ上場企業の85.5%が同制度を何らかの形で取り入れている(※2)