大西直樹裁判長は無罪を言い渡した写真はイメージです Photo:PIXTA

無罪を訴えていた女性は判決前「真っ白な判決を求めたい」と願いを口にしていた――。滋賀県東近江市の病院で2003年、男性患者(当時72)の人工呼吸器を外して殺害したとして殺人罪で懲役12年が確定・服役した元看護助手の西山美香さん(40)の再審判決公判が31日、大津地裁で開かれ、大西直樹裁判長は二度「被告人は無罪」と繰り返し言い渡した。裁判長が主文を繰り返し口にするのは異例だ。西山さんの服役中から確定証拠に対する数々の矛盾点が浮上し、自白した調書も「でっちあげの作り話」とさえ指摘された事件。検察側は新たな立証をせず、無罪は確実視されていた。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

新証拠で自然死の可能性浮上

 判決理由で大西裁判長は「男性が何者かに殺されたという事件性を認める証拠はない」と事件性そのものを否定。死因については自然死の可能性が高いと認定した。

 加えて西山さんの自白について「任意捜査の段階から主要な供述がめまぐるしく変遷していた」と一切の信用性を退けた。

 そして取り調べの担当刑事が西山さんに軽い知的障害があることや恋愛感情につけ込み「強い影響力で供述をコントロールした」と述べ、でっち上げの捜査で嘘の自白を引き出したと結論付けた。

 大西裁判長は主文言い渡しの後は「被告人」ではなく「西山さん」と呼び方を変え、最後に「時間は取り戻せないが、今回の公判は刑事司法の在り方に大きな問題点を提起した」と総括した。

 判決後、西山さんは裁判所前で支援者から花束を受け取り「みなさんのおかげで無罪判決をいただくことができました」と涙を流した。

 この問題(※筆者注:無罪判決で事件性がなくなりましたので、以降は「問題」と表記します)を巡っては滋賀県東近江市の湖東記念病院で03年5月22日、入院していた男性が死亡しているのを看護師が発見。

 県警は04年7月、人工呼吸器を外して男性を殺害したと自白した西山さんを逮捕。西山さんは公判で無罪を主張したが、最高裁で有罪が確定した。