同一労働同一賃金の波紋Photo:PIXTA

余裕ない企業は派遣切りへ
「同一労働同一賃金」の波紋

 2019年12月末、大手派遣業者の名古屋営業所に、かねて派遣契約の更改を打診していた市内の工業用機器輸入・設備施工業者の総務部長から電話が入った。緊張しつつ応対した担当者に告げられた内容は、「法の趣旨は理解できるものの、現在の当社には派遣社員の時給を6%引き上げてまで雇用する余裕はないため、年度内中に契約を解除したい」というものだった。

 また、2月14日および18日には、有期契約および有期契約から無期契約に転換した非正規の日本郵便社員が、全国7カ所で正社員との格差是正を求めて集団提訴に踏み切った。原告154人・弁護団43人・請求総額約2億5000万円の大がかりな訴訟の行方は、日本全国の非正規社員の処遇に相応の影響を及ぼすことが見込まれる。

 これらはいずれも、4月1日に施行されたパートタイム・有期雇用労働法(パート・有期法)施行に伴う不合理な待遇の禁止、いわゆる“同一労働同一賃金”がもたらした影響の一端といえる。

外国人労働者も対象
混乱は避けられない

 日本の非正規従業員は、2月14日に発表された2019年の速報値で2165万人と、就業者全体の3割超に及ぶ。人口減少社会の到来や団塊世代の定年退職、その後の雇用延長等を背景に、人数に増減がみられる正規従業員とは裏腹に、直近の10年間、右肩上がりで伸びてきた。

 他方、非正規従業員の平均賃金は、正規従業員の約65%にとどまる。経済政策を重視する現政権ゆえ、「非正規従業員の待遇底上げによって個人消費活性化につなげたい」意図に沿って、同一労働同一賃金の立法化が図られた。企業はその分、コストアップするが、それは企業側の努力によって生産性を高めて解決せよというのが、政府の基本姿勢だ。

 このため、対象となる企業側には、相応の負担や混乱が、当然のようにもたらされている。約半年前のデータながら、日本経済新聞社の「社長100人アンケート(19年9月20日)」でも、18年6月29日の立法化から約15カ月の経過時点で、対応が「完了した」企業は4割弱にとどまっていた。