TBSドラマ「半沢直樹」の原作『銀翼のイカロス』限定公開!
前作のメインキャストに加え、フレッシュな新メンバーの出演で話題沸騰!日本全国に「倍返し!」旋風を巻き起こしたあの怪物ドラマ「半沢直樹」がいよいよ帰ってくる!原作は、「週刊ダイヤモンド」で連載された池井戸潤氏の『ロスジェネの逆襲』と『銀翼のイカロス』の2作。読者からの人気記事投票で1位となるなど、連載当時からビジネスパーソンに圧倒的な人気を誇っていた。そこでドラマ放映を記念して、『銀翼のイカロス』序章から2章までを期間限定で特別公開する。*2020年9月末まで

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「なんだか、けったいな話ですね。どういうことなんでしょう」

 帰社した半沢が、面談の内容を掻い摘まんで話すと、田島は首をかしげた。

「さあな。聞き出そうとしたんだが、結局、彼女は口を割らなかった。頑固なところがあるな、彼女」

「サッチャーですからね」

 冗談めかして田島がいった。

「サッチャー? なんだそれ」

「谷川さんのあだ名ですよ。そう呼ばれてるんです。ああ見えて結構、タフ・ネゴシエーターなんですよ、彼女」

 組織の意思を代弁しつつ、一方で自分の意見もはっきりと述べる、そんな谷川の印象は悪くない。同時にそれは、開投銀という組織の中で、谷川なりの葛藤があることをも意味している。

「まったく、開投銀は昔から何考えてるかわからないところがあったからなあ」

 田島はやれやれと嘆いてみせてから真顔になり、「ウチが必ず折れるって乃原がいったってのも、どうも気にくわないですね。そんなことを現段階で気安くいうなんてヘンですよ。何かあるんですかね。考えてみると、ウチの役員会が債権放棄拒絶のメモを承認しなかったのも、どうも腑に落ちないんですよ」

 それは、半沢も感じていたことだ。「頭取ってそんな方でしたっけ」田島は不審を滲ませる。

「いや──」

 半沢は首を横に振った。

 中野渡の融資のスタンスは極めてオーソドックスで誇り高い。だが一方、行内融和に配慮しすぎる側面もあり、それが往々にして読み切れない経営判断につながることがある。それに、敢えていうなら、中野渡は決して清廉潔白なだけのバンカーではない。策士であり、清濁併せ呑む人間臭い男でもある。

「本来なら、そんなものは断れ、と一刀両断しただろうな。そういう人だったはずだ」

 かつての中野渡の仕事ぶりを知っている半沢は評した。いろいろあったが、中野渡のことは、正直、嫌いではない。むしろ、目標とするバンカーであり、尊敬に値する。

「旧Tへの遠慮、ですか」

 田島が、落胆まじりにいった。「だからって、こんな債権放棄に応じることないじゃないですか。だんだん銀行の論理ってやつが信じられなくなってきましたよ。なんだか、我々が知らないルールに則って動かされてるような不思議な感覚というか」

 まったくだ、と半沢も思う。

 正論がいつのまにか端に追いやられ、詭弁がそれにすり替わる。考えすぎた挙げ句、時としてバカでもやらないようなことをするのが組織というやつだ。

「まさかこれがタスクフォースのマジックってわけじゃないんでしょうが、どうも胡散臭い」

「債権放棄については正式回答まで時間がある。少しばかり様子を見るか」

 慎重にいった半沢に、帝国航空の山久から思いがけない連絡があったのは、その数日後のことであった。

「タスクフォースの再建案の一部を入手したんで、もし興味があればと思いまして」

 かけてきた電話の向こうで、山久は声を潜めた。

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