橘玲の世界投資見聞録 2012年8月20日

[橘玲の世界投資見聞録]
金融バブル崩壊後のアイスランドが
短期間で奇跡の復活を果たした理由

DIY文化の国

 アイスランド社会はなぜ、DIY(自分のことは自分でやろう)の文化なのだろうか。


「そんなの当たり前だよ」午前3時の太陽を眺めながら、スポーツバーで知り合った赤ら顔のオヤジがいった。「アイスランドの人口はたった32万人しかいないんだ。12月になれば太陽は昼の12時に昇って午後3時に沈む。年が明ければ1日じゅうずっと夜だ。この国の制度は、それでもみんながやっていけるように、最小限で動くようにできてるんだよ。そんなところに、夏には大挙して観光客がやってくる。手厚いサービスなんてできるわけないから、できることは自分でやってもらうしかないのさ」

 レイキャビクでも、レストランの多くはビュッフェ形式だ。ウエイターのサーブする店もあるが、そこは限られた高級店で、銀座や六本木で食事をするのと同じくらいの値段がする。金融バブル崩壊で通貨アイスランドクローナが暴落した後でこの値段だから、07年まではその3倍はした。スモークサーモンと子羊のグリルを食べて、コーヒーを飲んだだけで1人2万円という異常な料金だ。

レイキャビクのシンボル、ハットルグリムス教会  (Photo:©Alt Invest Com)

アイスランドの金融バブルと国民性

 アイスランドでなぜ金融バブルが発生したのかはいろいろな説明がされているが、このDIY文化が金融資本主義とものすごく相性がよかったのは間違いない。

 アイスランドの「バブルの戦犯」は元演劇青年の政治家ダヴィード・オッドソンで、1980年代に新自由主義の経済学者ミルトン・フリードマンに感化され、91年に首相になると大胆な民営化政策を実行した。04年に首相の座を降りると自ら中央銀行総裁に就任し、こんどは徹底した金融自由化に着手する。こうして、北極に近い小さな島にまれに見る金融バブルが発生した。

 それがどのようなものだったかは、次のようなデータを並べるだけでわかる。

 アイスランドの3大銀行(カウプシング銀行、ランズバンキ銀行、グリトニル銀行)の総資産は、2003年にはGDPとほぼ同じだったが、約3年半でGDPの10倍の14兆4370億クローナ(当時の為替レートで約28兆円)にまで膨らんだ。

 03年から07年にかけて不動産価格は3倍、株価は9倍になり、通貨は対ドルで60%上昇した。それにともなってアイスランドの平均的世帯の収入は、わずか3年半で3倍に増えることになる。年収500万円の世帯がいきなり年収1500万円になるのだから、これはものすごいことだ。

国全体がヘッジファンド

 こうした錬金術の秘密は、いまになってしまえば簡単なことだ。アイスランドの銀行は、高金利のポンド預金やユーロ預金でヨーロッパの個人や企業からお金を集め、それを南欧や東欧の不動産に投資したり、株式市場で片っ端から株を買ったりして運営していた。すなわち、国全体がヘッジファンドになってしまったのだ。

「バブルの遺産」といわれ、建設工事が中断していた文化施設HARPAも完成した (Photo:©Alt Invest Com)

 金融バブル崩壊後にアイスランドを訪れた作家のマイケル・ルイスは、その原因は学歴と仕事のギャップにあるという(『ブーメラン』〈文藝春秋〉)。

 アイスランドはヨーロッパでも高い教育水準を誇るが、仕事といえばサケのトロール漁か、地熱発電による安価な電力を利用したアルミの精錬くらいしかなく、そのうえヨーロッパ企業がアルミ精錬工場を建設しようとすると、「妖精たちの住み処を破壊するな」と反対運動が起きるのだという(アイスランド人はいまだに妖精の存在を信じているのだ)。

 そんなところに突如、知的かつボロ儲けのできる夢のような仕事が天から降ってきた。こうして、去年までトロール網を引いていた男たちがいきなり投資銀行家になったのだ。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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