新たな受け皿が非上場化に必要

深刻な構造不況に直面する銀行業界。特に地方銀行の経営はにわかに厳しさを増している。銀行経営に詳しい高橋秀行・共立株式会社取締役会長が、全4回にわたり今後の地銀経営のあるべき姿を展望する本連載。第3回では、地銀に必要な非上場化の道筋とガバナンス体制を解説する。

中長期的な収益目標を追うために
地銀に求められる「非上場化」の道筋

 第2回「地銀を苦境から救う可視化ツール「RAF」、“不都合な事実”を直視せよ」で説明したように、「リスクアペタイト・フレームワーク(RAF))の活用は地方銀行に対して、生き残るための処方箋を策定するプロセスの強化につながると考えています。

 ここで問題となるのが、地方銀行の株主が期待するリターン水準と、現実問題として達成可能なリターン水準とのギャップです。

 足元の地域経済の状況は厳しく、地方銀行にとって株主が期待するリターン水準を達成するのは難しい経営環境にあります。従って「リスクアペタイト・ステートメント(RAS)」と経営戦略フローの整合性を確保することを前提にしてこのギャップを埋めることは、多くの地方銀行にとって現実問題として難しいということになります。

 しかしながら、多くの地方銀行は地域経済の中核であり、極力、自力で持続可能なビジネスモデルへの転換を進めなければなりません。

 地方銀行が自力で持続可能な収益構造を構築し、株主の期待する収益水準を安定的に上げるには、当面の経営環境を前提に考えると対顧客向け部門の収益だけでは不十分であり、市場部門も対顧部門と並ぶコアビジネスに位置付けることを検討する必要があります。

 市場部門をコアビジネスに位置付けるには、市場部門を組織面・人材面で抜本的に強化する必要があり、合わせてリスク管理体制の強化も必要になります。

 これを経営方針として、RASにおいて明確にすることが必要になってくると思います。また、少子高齢化やITテクノロジーの進化による競争環境の劇的な変化が想定される経営環境でもあり、地域経済の中核の銀行として“破壊的”(ディスラプティブ)な改革に果敢に挑戦することも必要だと考えます。

 一方で「ヒト・モノ・カネ」といった経営資源の制約から、市場部門の抜本的な強化が難しい場合には、市場部門に高い収益を期待することはできません。ですので、対外公表している当期利益目標を引き下げた上で、対顧部門の収益基盤を強化するまでの時間軸を確保することを検討する必要があると思います。

 このような経営戦略を選択する場合には、まずRASにおいて市場部門は対顧部門の補完的な位置付けとした上で、市場部門においては過度なリスクテイクをせず、安定的な収益を目指すことを明確にする必要があります。

 その上でコアビジネスである対顧ビジネスにフォーカスして地域経済の状況に合わせて、ある程度の時間をかけて対顧部門の抜本的な改革を計画的に実施し、持続可能なビジネスモデルへの転換を図ることをRASにおいて明確にすることが必要です。

 対外公表している収益目標を引き下げるためには、外国人株主を含む多様な株主に対する説明責任を果たす必要があります。上場企業の経営トップとしては、現実問題として簡単に決断できることではないでしょう。

 短期的な収益を狙うのではなく、中長期的な観点で安定的な収益基盤を構築することを可能にするためには、「非上場化」という選択肢もあるのではないでしょうか。