8月上旬にメキシコ市を訪れた。メキシコの他の地域では死者が多数発生する麻薬抗争が起きているが、メキシコ人の間ではメキシコ市は安全とみられていて、国内観光客は増加している。

 近年のメキシコ経済は堅調な成長を続けてきた。インフレ率は中央銀行の目標(3%)よりやや高いが、かつての高インフレ時代に比べれば安定している。財政のプライマリー収支は2008年まで黒字で、公的債務のGDP比は昨年末で34%と日本よりも健全だ。

 先進国の超低金利政策により、運用利回りを求めてメキシコの金融市場に先進国の投資家の資金が流入してくることもあって、金利は低下している。それが中間層の耐久消費財購入を容易にしており、消費は緩やかだが拡大している。

 とはいえ、メキシコは世界で指折りの所得格差社会でもある。市の西側にアルミのパネルで囲まれた窓のない巨大な建造物がある。米「フォーブス」誌の富豪ランキングで、ビル・ゲイツを抑え3年連続で世界1位(資産690億ドル)になったカルロス・スリム氏の美術館だ。昨春にオープンしたこの美術館の名称には、1999年に亡くなった夫人の名前が付けられている。ゴッホ、ダリなど6万6000点のコレクションの一部を無料で公開している。

 スリム氏は通信会社や銀行、スーパーマーケット、家具販売などのコングロマリットを経営している。8月6日の経済紙「EL ECONOMISTA」は、同氏のグループの第2四半期の利益が急増したことを1面トップで報じ、「スリムがまた儲かった」と書いていた。