「予言する妖怪」アマビエの絵「肥後国海中の怪」(アマビエ)京都大学附属図書館蔵

新型コロナに苦しむ日本に突如起こったアマビエブーム。およそ180年前に疫病と対処法を予言した妖怪、「予言獣」である。ところが、アマビエは予言獣としては新参者で、その“実績”もイマイチな存在。実は「神社姫」という元祖予言獣もいるのだ。なぜ、令和の人々はアマビエに魅かれるのか、そして予言獣とは?兵庫県立歴史博物館の妖怪博士に話を聞いた。(フリージャーナリスト 秋山謙一郎)

アマビエは新参者!?
「予言獣」列伝

 その妖怪、人々の心の奥底を映し出す鏡なり――。

 世界中で蔓延(まんえん)している新型コロナウイルス。多くの人々にとって、これまで経験したことのない混乱の中で、“IT時代における井戸端会議”であるSNSでは、奇妙なブームが起きている。人魚のような体、鳥を思わせるくちばし…、魚とも、鳥とも思わせる半人半魚の生き物をかたどったこれを描き写し、広く拡散させるというものだ。そこには、今なお混乱著しい、コロナ禍が無事に収まるようにとの願いがある。

 この得体の知れない生き物、これこそが古く江戸時代から伝わる「アマビエ」だ。愛嬌のあるかわいらしい生き物に描いている人が多いが、歴とした妖怪である。水木しげる氏による漫画『ゲゲゲの鬼太郎』でも、アイドル的存在として登場する妖怪として知られている。

 人知を超えた存在である妖怪たちには、「予言獣」と呼ばれるものたちがいる。人間の前に忽然(こつぜん)と姿を現し、これから起こるであろう災厄を予言し、それを避ける方策をも示す――妖怪でありながら、人への親切心も持ち合わせているのだ。アマビエも、この予言獣である。

「我こそは、アマビエと申す者なり。当年より6年の間は、諸国で豊作が続く。だが疫病もはやる。だから我の姿を絵にして描き写し、人々に早々に見せよ」

 時は江戸時代、弘化3年(1846年)、肥後の国(現在の熊本県)で、ある日の夜、海中に光る生物が現れた。役人が赴いて様子をうかがう。すると、その半人半魚の生き物は、こう言って、海の中へ去っていったという。このアマビエが、令和の今、コロナ禍によってよみがえった。