橘玲の日々刻々 2020年5月7日

アフター・コロナよりアンダー・コロナ(コロナ下での社会)が大事。
無駄な規制がなくなり、オンラインを常態とした
新しい世界を体験することになるだろう!
【橘玲の日々刻々】

 4月7日の緊急事態宣言から1カ月が過ぎ、制御不能の感染爆発という最悪の事態は避けられたものの、いまだ予断を許さない状況がつづいています。未来は不確実とはいえ、ある程度見えてきたこともあるので、このあたりでいちど、私たちがどのような場所に置かれているのかを考えてみたいと思います。

「アフター・コロナ(コロナ後)」より「アンダー・コロナ(コロナ下)」が重要

 コロナウイルスの感染率と致死率については専門家のあいだでも意見が分かれますが、それが弱毒性で、感染してもほとんど症状の出ないひとが一定数(あるいはかなりたくさん)いることが対処を難しくしていることは間違いないでしょう。

 新型肺炎によるこれまでの日本の死者は500名強なのに対し、大きな被害を出したイタリアの総死者数は約3万人で、高齢者施設などで死亡したためカウントされていない分を加えればさらに多くなると報じられています。100万人あたりの死者数に換算すると日本の4人に対してイタリアは481人で120倍に達します。イタリアと並んで被害の大きなスペインの死者数は100万人あたり544人で、日本の130倍以上です。

 いずれも恐ろしい数ですが、イタリアの総人口6000万人に対する死亡率は0.05%、スペインもほぼ同じで、あれだけの惨状でも1万人のうち9995人は生き延びていることになります。

 イタリアのなかでもっとも被害が大きかったのが北部のロンバルディア州で、死者は1万4000人を超えました。人口比で日本の死亡者数の350倍という驚くべき数字ですが、ロンバルディアの人口は1000万人ですから死亡率は0.14%。大規模な医療崩壊が起きても死亡するのは1万人のうち14人で、9986人は生き延びたということもできます。

 新型肺炎の死者は高齢者と糖尿病など既往症のある患者に集中しているとされます。それを考えれば、私たちのほとんどはこの感染症を乗り越えることができるし、これからも人生は続いていきます。この事実(ファクト)が議論の第1の前提です。

 今後の展開については楽観論と悲観論が入り乱れており、私は専門家ではないのでいずれが正しいかを判定することはできませんが、危機においてはマクシミン戦略(最悪の状況を前提に最善の対処法を考える)を採るべきだとすれば、極端な楽観論は排すべきでしょう。

 専門家の多くは、現在のような状況が2~3年、もしかしたそれ以上の長期にわたって続くと予想しています。だとすればいつになるかわからない「アフター・コロナ(コロナ後)」を論じることにさほどの意味はなく、重要なのは「アンダー・コロナ(コロナ下)」です。これが、第2の前提です。

 アンダー・コロナにおいては、感染の拡大を防ぎながら経済活動を維持することが大きな課題になります。これについても世界じゅうで議論百出していますが、「感染症に強い社会をつくっていかなくてはならない」ということについては誰もが同意するでしょう。感染拡大は人間の移動と対人接触の函数なのですから、これを減らすことが経済活動再開の条件になります。これを第3の前提としましょう。

ウイルスに対処するための「アンチ・グローバル化」と別の「グローバル化」

 私はこれまで、世界は「知識社会化・グローバル化・リベラル化」の大きな潮流にあると繰り返し述べてきました。アンダー・コロナでこれがどうなるかを次に考えてみます。

 知識社会化の背景にあるのは指数関数的なテクノロジーの進歩で、AI(人工知能)、ブロックチェーン(ビットコイン)、遺伝子編集(CRISPR-Cas9)など、10年前には想像すらできなかったイノベーションが私たちを驚かせています。こうした研究開発はいまでは国境を超えてグローバルに進められており、感染症を克服するためのさらなるテクノロジーが求められています。

 それと同時に、人間の移動と対人接触を減らさなければならない社会では、テレワーク(在宅勤務)、オンライン教育、オンライン医療などが急速に普及していくでしょう。こうしたビジネス領域はGAFAなどのグローバル・プラットフォーマーによって牽引されており、それに適応できるかどうかが企業や個人の(経済的な)生き残りに大きな影響を与えます。すなわち、アンダー・コロナでは知識社会化はさらに加速するでしょう。

 治療法のない感染症の蔓延によって、グローバルなヒトやモノの流れが劇的に減少したことはいうまでもありません。これはまさに「アンチ・グローバルの逆流」ですが、その一方で別の「グローバル化」が急速に進むのではないかと私は考えています。

 感染症(ウイルス)とは、国境や共同体の歴史・文化などをいっさい考慮しない真に「グローバル」な存在です。そんなグローバルなウイルスに対処しようとすれば、その方法もすべての国に共通のグローバルなものになるほかありません。

 日本には書類に押印する「文化」があり、それがビジネスのオンライン化を阻害しているとずっと批判されてきました。「はんこ議連(日本の印章制度・文化を守る議員連盟)」なるものが、「文化相対主義」の旗を掲げて規制緩和を阻む「岩盤」になってきたのです。

 しかしテレワークへの移行が進められるなか、「書類に押印するためだけに出社しなければならない」とSNSなどで批判されたとたん、安倍首相の鶴の一声で「押印や対面、書面提出の慣行の見直し」が決まりました。これなどは、ウイルスの“グローバリゼーション”の圧力の下では「日本古来の文化」などなんの役にも立たないことを示した象徴的な例でしょう。

 これから世界じゅうで(欧米先進国と中国・東アジアを中心に)、「感染症に強い社会」をつくるためのさまざまな社会実験が行なわれ、そのなかで効果のあるものが即座に取り入れられて、最終的にはすべての国の社会インフラがひとつに収れんしていく。アンダーコロナでは、こうした「システムのグローバル化」が急速に進んでいくだろうと予想します。

 3つ目の「リベラル化」ですが、現時点では中国(死者4600人)が徹底した監視と統制によって感染拡大をほぼ抑え込んだのに対し、アメリカの総死者数は7万を超え、新規の感染者も1日2万5000~3万人という膨大な数に上ります。感染症対策で「中国は成功し、アメリカは失敗した」ことは明らかで、トランプ政権による中国批判の背景には「リベラルデモクラシーの敗北」を受け入れられない自己正当化の心理があります。

 そう考えれば、アンダー・コロナで私たちは徐々に自由やプライバシーをあきらめ、中国のような「独裁制の監視社会」に近づいていくとの予測には説得力があります。しかしその一方で、オランダやスウェーデンのように、一定の社会的コストを受け入れながら「自由」を維持する社会実験を行なっているところもあります。

 これはアフター・コロナを考えるうえでもきわめて重要な論点なので別に論じることにして、ここでは「リベラルな価値観は変容するだろうが失われるわけではない」ということだけを指摘しておきます。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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