金正恩氏健康不安説が常につきまとっている北朝鮮最高指導者の金正恩氏 Photo:Bloomberg/gettyimages

金正恩氏が命運を握る
北朝鮮の政権

 韓国の主要紙「中央日報」は5月4日、「金正恩消息不明事態20日間の教訓」という社説を掲載した。それは、朝鮮半島を見るうえで非常に重要なポイントを指摘している。

「金正恩氏が1日、順川(スンチョン)の化学工場の竣工式に登場することで、20日間続いた事故説に終止符を打った。これにより朝鮮半島情勢が制御できなくなるという懸念はひとまず消えた。しかし、金正恩氏の潜伏騒動で改めて確認された事実がある。北朝鮮という体制そのものが持つ不透明性と予測不可能性は変数でなく常数だという点だ。核のボタンを手にしている金委員長の動向が20余日間『真っ暗闇状態』に陥ること自体が韓国の安全保障にとって最も大きなリスク要因ということだ」

 この指摘は、韓国ばかりでなく日本にも当てはまる。日本はこのような北朝鮮という国が日本海を越えた向こう側にあることを改めて認識する必要がある。北朝鮮については核ミサイルの恐怖が取り上げられることが多いが、それよりも朝鮮半島情勢が制御できなくなったときにまず発生する問題は、避難民の大量流出である。

 北朝鮮は、密告制度と思想統制に支えられ、金正恩氏の強権政治、恐怖政治が作り上げた独裁体制国家である。金正恩氏が倒れたときには、北朝鮮の体制崩壊も視野に入れた対応が必要になるだろう。

 4月12日以降、金正恩氏異変の噂が広がってから、平壌ではコメや洗剤などを買いだめする動きが広がり、それは輸入品ばかりでなく、自国製品にまで拡大した。

 仮に金正恩氏死亡となれば、後継者は金正恩氏の実妹である金与正(キム・ヨジョン)氏だといわれているが、その地位は、少なくとも当初は極めて不安定なものになるだろう。金正恩氏は政権幹部の粛正を繰り返してきた。残った崔竜海(チェ・リョンへ)氏でさえ、降格と昇格を繰り返して今に至る。このことは即ち、金与正氏に対抗できる側近はいないと同時に、女性であり年齢が若く、カリスマ性に欠ける与正氏を補佐して政権を取り仕切れる側近もいないことを意味する。そのような政権が、金正恩氏のように強権で北朝鮮を支配できるかは疑問である。