橘玲の日々刻々 2020年5月15日

アンダー・コロナでは「リベラルな社会」を実現することで
「超監視社会」が実現可能になる
【橘玲の日々刻々】

 前回、アンダー・コロナ(コロナ状況下)では「知識社会化」と「(システムの)グローバル化」が進むだろうと述べました。今回は、私たちの社会がどのように変わっていくのかを考えてみたいと思います。キーワードは「リベラル化」です。

[参考記事]
●アフター・コロナよりアンダー・コロナ(コロナ下での社会)が大事。無駄な規制がなくなり、オンラインを常態とした新しい世界を体験することになるだろう!

 「治療法のない感染症は“生命”と“経済”のトレードオフを突きつけた」といわれます。じつは私も最初はそのように考えたのですが、その後、これは正しくないと思うようになりました。以下に述べるように、超監視社会では「生命を守る」ことと「経済活動を維持する」ことは両立するのです。

 ではなにがトレードオフになるのか。ここではそれを“生命vs自由”としてみたいと思います。

超監視社会では「生命」と「経済」は両立する

 感染をほぼ制圧していたシンガポールや韓国で新たなクラスターが発生したのを見ても、感染症とのたたかいがいかに困難かがわかってきました。アンダー・コロナでは、私たちは常に感染リスクを意識しながら生活しなければならないのです。

 このような状況下では、「子どもたちを学校に通わせ、経済活動を維持するために、どんなことをしてでも感染拡大を抑止してほしい」とひとびとが願うのは当然です。そんな国民の要求を実現するのが「超監視」で、それはたとえば次のような社会です。SF的ではありますが、おそらくは現在のテクノロジーで(ほぼ)可能なことばかりでしょう。

 まず、10歳以上のすべての国民の手の甲の皮膚の内側にGPS機能付きのICチップを埋め込みます。ICチップにはマイナンバーが記録され、日本国内であれば、いつどこにいたのかが行政のサーバーに自動的にアップロードされていきます。その情報を突き合せれば、同じ部屋や店内に誰がいたかも正確にわかるでしょう。――ちなみに手の甲にするのは、このICチップにクレジットカード情報や定期券など公共交通機関の決済情報(あるいは健康保険証)を組み込むことで財布を持ち歩く必要がなくなるからです。

 感染症が発生し、検査によって陽性が判明したら、GPSの記録を辿って過去2週間にいた場所と、そこで接触した人物を即座に割り出します(外国人旅行者にはチップを埋め込めないため、出国するまで外すことができないリストバンドのようなものを使うことになるかもしれません)。こうして感染リスクのある濃厚接触者が判明したら、全員に、近隣にある施設で2週間の隔離が命じられます。

 これはひとつの例で、もっと効果的な方法があるかもしれませんが、「命を守る」ためにどのような監視でも許されるとすれば、感染リスクを下げながら経済活動への影響を最小化できます。こうした超監視社会では「生命」と「経済」は両立するのです。

 この理屈では、欧米などの先進諸国が感染抑制に失敗したのは「監視が足りないから」ということになります。中国はさまざまな監視技術を駆使して14億の国民の移動を制限し、感染者を強制的に隔離することで、工場や学校だけでなくディズニーランドのようなエンタテインメント施設まで再開できるようにしたのですから。

 超監視社会に対して、多くのひとは自由を奪われることを嫌悪・恐怖するでしょうが、梶谷懐・高口康太両氏が『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書)で論じたように、「監視社会はひとびとを不幸にするディストピア」と決めつけることはできません。中国政府・共産党による監視が強化されるとともに、中国社会はより安全になり、ひとびとはより行儀よくなり、国民の幸福度・満足度も上昇しているようなのですから。

 もちろん新疆ウイグル地区の再教育キャンプのように、監視がグロテスクな権力の行使になる現実が起きていることは間違いありません。しかしだからといって、監視社会下の中国のひとたちを「洗脳」のひと言で切り捨てることはもうできないでしょう。国家・行政による監視にはポジティブな面とネガティブな面があり、恩恵の方がより大きいと感じるなら、ひとびとは自発的に監視を受け入れるのです。

 感染症の抑え込みに失敗し8万人を超える死者を出したアメリカに対して、中国のひとたちは、自分たちの社会の優越性が証明されたと考えているようです。監視社会は感染症においても、ひとびとを「幸福」にする。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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