フィリピン 2020年6月2日

【緊急レポート】新型コロナウイルス感染で2カ月以上続く
フィリピン・マニラ首都圏封鎖(Lock Down)【後編】

 

2カ月に及ぶマニラ封鎖はさらに延長。その後緩和措置はあったが……

 

 4月8日(水)、新型コロナウイルスの感染は、一向に収まる気配を見せず、世界的にますます拡大し、日本も緊急事態宣言間近という状況。フィリピンも案の定、4月末まで、封鎖の延長がなされると発表があった。これは当然の処置であろうとの見方が大勢だった。

 4月25日(土)朝、マニラ封鎖がさらに5月15日(土)まで延長されることが発令された。これで2カ月間の封鎖となる。日本でも緊急事態宣言が発令されてから2週間たって、果たしてその効果はと、周囲はかしましいが、フィリピンはもっと厳しい封鎖を3月15日(日)と早々に開始して徹底されているにもかかわらず、その成果らしきものは見えず、2度目の延長となった。韓国、中国、台湾などは、終息といえる状況になっていることが、唯一の救いだ。

 封鎖開始から2カ月、在宅隔離も我慢の限界が近くなってきている。そんな矢先の5月13日(水)、再び5月31日(日)まで封鎖継続のニュースが流れた。これまでのECQ(強化地域防疫)に対して、MECQ(修正強化地域防疫)と称しており、工場や事務所の限定的再開などの緩和措置があるようだ。庶民の生活としては食料品の他に日常品の販売が解禁になる。

 ただし、外出禁止は継続しており、公共交通機関も動いていない。庶民にとってはジョギングなどが許されたことくらいが大きな違いだろうか。

 私としても2カ月間一歩も外に出ておらず、外の空気に触れるのは1日1回、新聞を取りに玄関に出る時だけで、いい加減飽き飽きしている。ちなみに首都圏以外はGCQ(一般地域防疫)と称してかなり緩和されたものになっている。ただし、首都圏への出入りは禁止されたままだ。

収まる気配がない感染拡大。スラム街では集団感染も

 日本では、緊急事態宣言から1カ月を経過してコロナ感染が急速に終息しつつあり、5月25日(月)には全国的に非常事態宣言そして自粛要請が解除された。一方、フィリピンは3月15日(日)に早々と封鎖宣言が発令されたにもかかわらず、その後、感染は急拡大して、現在も収まる気配がない。しかし人々は大統領の命令を粛々と受け止め、異論を挟む野党や庶民はいない。

 最近のテレビのニュースでは、スコーター・エリア(スラム街)で集団感染というニュースが盛んに流れている。一部地域でトライシクル(営業用サイドカー付バイク)の営業を許可するために運転手の検査を行なったところ、250人の運転手が陽性だった。彼らの住まいはほとんどがスコーターだ。

 一般的な居住エリア、オフィス、工場などでは、徹底的な隔離・封鎖措置により、感染者はほとんど出ていないようだ。1部屋に10人もの人が暮らしているスコーターでは隔離も糞もない、まさに密集、密閉、密接の3密の状態が日常だ。そのため、大量の住民が感染し、大規模クラスターないしホットスポット化している。感染者は別途隔離されるものの、残りの住民は、そのエリアに封じ込められ、感染防止というより、感染させて抗体ができるのを待つ、という作戦のようだ。

 それでも数値的にはマニラ市で何人、マカティ市で何人、と発表されるため、あたかも地域全体に感染が蔓延しているような印象を与えるが、感染者が多いのはスコーターに限定されている。

 しかし、封鎖が解除されれば、スコーターの住人も街に繰り出すわけで、地域全体にコロナウイルスがばら撒かれることになるので、やはり封鎖解除というわけにはいかない。だから、スコーターを多く抱えるマニラ首都圏の完全な封鎖解除の道のりは遠いものになる。

 ちなみに感染者数と死者については、日本とほぼ同等で、アジアの国としては多めだ。これは、OFW(海外出稼ぎ)など、外国との行き来が盛んなためだろう。

 一方、すでに無料の公立病院は満杯で、私立病院は入院費を支払うことができないスコーターの住人を受け入れることはない。フィリピンの健康保険の求償は定額で、私立病院だと入院費の10%程度しか賄えないので、一説に100万ペソ(約200万円)を超えるという入院費に、自宅に戻らざるをえない状況がある。そうなると3密のスコーターでの感染拡大は避けることができない。

海外出稼ぎ者の失職と帰国によるフィリピン経済への大打撃

 さらに、海外で職を失って帰国するOFW(海外出稼ぎ)が2万4000人に達し、さらに5万人まで増加する見込みだ。彼らは2週間の隔離後、陰性であることを確認したうえで、故郷への帰還が許されるのだが、マニラの隔離施設は、これらの隔離者で満杯で、国内の陽性・無症状者を収容する余裕がない。

 
 これらOFWは毎年300億ドル(約3兆2000億円)と、フィリピンの国家予算に匹敵する海外送金を行なっており、国民の半数近くがそれを糧に生活しているともいわれる。彼らの失職と帰国は、フィリピン経済に大打撃を与えることは間違いない。

 スコーターなど局所的に封鎖された区域から住民が一歩でも外へ出ると、待ち構えていた警官が逮捕してバランガイ(最小行政地区)の牢屋に閉じ込められてしまうという厳しい措置にも、「やむをえない」という声が多数だ。

 6月1日(月)から封鎖が緩和されたが、感染者の発生しているバランガイごとの局所的封鎖によって感染拡大を防ぐ一方、一般地域は緩和して経済社会活動を回復させようという狙いだ。

 6月1日(月)からは首都圏もGCQ(一般地域防疫)に緩和され、行政、銀行、一般事務所、製造業、モール、公共交通機関などの運営、国内移動などが可能となるが、特に理由のない者(特に60歳以上と21歳未満)の外出は引き続き禁止される。

 ほぼ、日本の緊急事態宣言の状況並みになるのだが、学校再開については、8月24日(月)と暫定的に示されているが、実際には「ワクチンの開発後」というドテルテ大統領の発言があり、さらにずれ込む可能性がある。

 PRAにおいては「ニューノーマル」と称して、機能はするものの下記の運営体制となり回復したとはいいがたい状況が当面続くことになる。

1.事務所への入室は認めず、入口に置かれたボックスに申請書を置いていくこと
2.申請書類はEメールで事前にレビューを行うこと
3.問い合わせ、フォローアップなどはEメールで行なうこと
4.申請料の支払いは銀行振り込みとすること
5.ビザの発行は、郵送で行なうこと

 フィリピンは、まだまだ収束とは言いがたい状況ではあるものの、このまま首都圏全域の封鎖を継続することは社会・経済的に限界で、封鎖緩和に踏み切った(ただし、海外からの外国人の入国については音沙汰がない)。ただし、学校の再開はワクチン開発後とドテルテ大統領が発言しているように、庶民の生活が戻るのは、来年ないし数年先になるのではないか。それまではニューノーマルと称される、戦々恐々、人を見たらコロナと思え、といった殺伐とした世の中が続くことになるだろう。

(文・写真/志賀和民)

著者紹介:志賀和民(しが・かずたみ)
東京出身。東北大学大学院修了後、日揮(株)入社。シンガポールをかわきりに海外勤務を歴任。1989年日揮関連会社社長に就任しフィリピンに駐在。日揮(株)退職後、2003年にフィリピンに移住。2007年4月PASCO(退職者の何でも相談所)取締役。


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