ベトナム 2020年6月3日

【緊急レポート】新型コロナ対策優等生といわれるベトナム。
在住日本人から見たベトナム政府の対応はどうだったか?

「経済よりも国民の命を重視」という方針とその功罪

 「ベトナムは共産党一党独裁で、言論の自由は制限され、国民は政府の指示に反論せずに従うよう骨抜きにされている。だから今回も政府の強引な指示にも唯々諾々と従ったのだ」という意見を時々、耳にする。これは違うと私は思う。

 言論の自由が制限されているのは事実だが、ベトナム人は政府に対して「物申す」人たちである。一例として2018年に発生した大規模な反中デモをあげよう。これはベトナム政府が「経済特区において、外国人投資家に対して99年間の土地租借を認可する」という法案を立案したところ、「他国(特に中国)へ領土を譲渡することと同然」と国民が猛反発、各地で抗議デモが行なわれた。その結果、政府は同法案の成立を見送っている。

 そもそもベトナム人は自治意識が高く、「政府は自分たちの生活に口を出すな」という意識が強い。それに加えて、私が住んでいる南部ベトナムでは、今でも「共産主義政府は元・敵国」という認識をしている人が少なくない。現政府に対する不信感は外国人には想像ができないほど根強いものがある。

 そんな人たちを、政府の指示に従わせることは容易なことではない。にもかかわらず、政府が出す指示を国民が受け入れている状況を見ていると、私の知らなかったベトナム人の一面を見たような気がした。

 国民が政府の指示に従った要因としては、政府が「経済よりも国民の命を重視」という方針を打ち出したことも影響しているように私は感じている。それをいちばん明快に示しているのは、新型コロナ騒動初期1月27日にフック首相が出した「経済をある程度犠牲にしても、国民の健康と生命を守ることを最優先に考える」という声明だろう。

 これが正しい決断だったかどうかは、当時はもちろん、今もわからない。現時点でベトナムはコロナ対策の優等生と言われているが、後年「感染防止のためとはいえ、あそこまでの経済を犠牲したのは間違いだった」という判断が出てくるかもしれない。そもそも「従来のインフルエンザに比べて致死率が低いコ新型ロナウイルスのために経済を犠牲にするのはオカシイ」という異論もある。

 私の周囲のベトナム人でも、コロナ騒動の影響で失業したり、経営していた会社が倒産したりと、甚大な被害を被った人はたくさんいる。現時点では、「コロナ騒動が長引くと経済はもっと深刻な打撃を受ける。経済活動の制限は、それを未然に防ぐための一時的な措置なのだから我慢をする」という声のほうが大きい。しかし経済の立て直しが進まないようだと、国民の不満は表面化してくるだろう。

 ベトナムでは4月16日を最後に市内での感染者は確認されていない。5月の半ばには教育機関も授業を再開し、表面上は、コロナ騒動があったことが信じられないほど、町は活気を取り戻した。しかし注意深く見ると、以前はショップやレストランだったところが、空き家になっているところが目につく。企業の人員整理も続いている。ベトナム経済が一日も早く立ち直ることを期待したい。

人気カフェだったところが空き家になっていた【撮影/中安昭人】

ベトナムにおけるコロナ情勢の推移

*重要だと思われる日付は太字にした。

1月23日 初の陽性患者をホーチミン市で確認。患者は中国・武漢在住の中国人男性。

1月30日 ベトナム人の感染者が初めて確認された。感染者は3人でいずれも武漢からの帰国者。

1月31日 フック首相が中国との往来を制限するよう指示。航空各社もフライト停止を発表。

2月 1日 フック首相が「流行宣言」を発令。この時点での感染者数は6人。また教育訓練省は全国の省に対し、ベトナム正月休暇(〜2月2日)終了後も各種教育機関を休校するように指示。

2月 8日 ベトナム保健省がコロナ対策アプリをリリース。特設ウェブサイトも開設。

2月13日 16人目の感染者を確認。これ以降、3月5日まで新たな感染者は確認されず。

3月 6日 約3週間ぶりに感染者が確認された。感染者はヨーロッパから帰国したベトナム人。この後、感染者が急増。

3月17日 18日午前0時からすべての外国人に対するビザ(査証)の発給停止を決定。感染者数50人。

3月22日 すべての外国人の入国を停止。感染者数96人。

3月24日 ホーチミン市は席数の多いレストランなどに対し、同日午後6時以降の営業停止を指示。

3月26日 首相指示第15号を発出。内容は「3月28日0時~4月15日の期間、外出を最大限制限、商業サービス活動の休止」など。感染者数133人。

3月29日 感染者数169人。感染者数はこの日をピークに減少に転ずる。

4月 1日 3月31日に発出された首相指示第16号により、4月1日0時から15日間、国民に対する自宅待機の要請、公共交通機関の運行停止などが開始された。

4月15日 感染リスクの高い地域12の省と市に関して、16日以降も首相指示第16号の継続を決定。感染者数97人。

4月23日 22日にフック首相が社会隔離措置を緩和することを発表し、23日から経済活動が徐々に再開。

5月 4日 中学校以上の教育機関が授業を再開。その後、小学校が5月11日、幼稚園・保育園が5月18日に授業を再開した。

6月 1日 4月16日以来、市内での感染者ゼロを継続中。

(文・撮影/中安昭人)

筆者紹介:中安昭人(なかやす・あきひと)
1964年大阪生まれ。日本での約15年の編集者生活を経て「ベトナムスケッチ」(現地の日本語フリーペーパー)の編集長として招かれ、2002年7月にベトナムへ移住。その後独立し、出版および広告業を行なう「オリザベトナム」を設立。 2000年に結婚したベトナム人妻との間に娘が1人おり、ベトナム移住以来、ホーチミン市の下町の路地裏にある妻の実家に居候中。


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