「理論限界」「知覚限界」という二つの壁を越えるチャレンジは、これまでの企業発展の原動力になってきたのは事実だ。しかし、その成功体験こそが新たな成長に向けた呪縛になっている。今回は「手中にある技術の性能はもう上がらない」と考えた上で、複数の技術をつなげて新たな価値を生み出す「組み合わせ」の発想を提言したい。

「もう性能は上がらない」と
考えてみよう

 前々回前回と、性能には「理論限界」、「知覚限界」という二つの壁があると述べた。

 今後、こうした性能の壁をどのように捉えるかが、製造業の帰趨を決める。壁を乗り越えることで未来が洋々と広がるのなら、犠牲を払ってでも取り組む価値はある。しかし、例えば、テレビのような製品で見る側が知覚できない高みに達したところで、誰も振り返ってはくれない。このように、性能限界の壁を越えるチャレンジは、企業発展の原動力にもなる一方、無駄に苦労を積み重ねるだけということにもなりうる。

 今日、日本経済があるのは多くの先達が性能の壁を乗り越えてきたからであるのは間違いない。しかし、本連載では、その成功体験こそが新たな成長に向けた呪縛になっているのではないか、と問いたい。成功体験に根差した呪縛を解き放って、目の前にある壁を乗り越えるには、性能への期待を頭から払拭することが必要だ。そこで、今回は「手の中にある技術が全て性能限界に達している」と考えた上で、次なる戦略を検討していきたい。

コストを下げるか
価値を高めるかの二者選択

「技術が全て性能限界に達している」としたら、市場のニーズに応え、競争者を戦っていくためには企業は何をすべきだろうか。一つは、言うまでもなく、コストを徹底的に下げて競争力を高めることである。もう一つは、今の技術に何かを加えて、商品としての価値を高めることだ。言い換えると、単体では表現できない価値を生み出そう、とすることだ。道はこの二つしかない。性能の差がほとんどなくなっているのに、わずかな差に期待して、コスト競争に巻き込まれない第三の道があると思うべきではない。