新しい薬の開発、医療技術の進歩によって、以前なら助からなかった病気でも治療が可能になり、生存率も伸びている。

 中でも、細胞の中にある特定の分子を狙い撃ちする分子標的薬は、正常細胞への影響を抑えながら、治療効果をあげられるものとして期待を集めている。

 しかし、価格もこれまでの医薬品の常識を覆すほど高額だ。

 桁違いに高い医薬品の登場は、薬剤費を押し上げる要因のひとつになっており、2009年の日本の総医療費のうち2割は薬剤費が占めている。そうした医療の財政事情を背景に、価格の高い医薬品を健康保険に適用するかどうかは、その価格と効果を検証すべきではないかといった議論が始まっているのだ。

80年代に始まった薬価改定で
薬剤費の無駄遣いは飛躍的に減少

 日本の医療費は公定価格で、手術や入院などの医療行為の単価(診療報酬)は国がひとつひとつ決めている。医薬品も例外ではなく、国が健康保険を適用する薬の種類と薬価(薬の公定価格)を決めている

 一昔前まで、薬剤費高騰の原因は、医療機関が「薬価差益」を得るために行われた薬漬け医療だと言われていた。

 製薬メーカーが医療機関に薬を販売するときは、国が決めた薬価ではなく、メーカーの裁量で自由に決められるので、大幅な値引きも行われる。薬価よりも安く薬を仕入れれば、その差額は医療機関の利益になる。この薬価差益が医療機関の経営原資になっていたため、中には必要のない薬をだして利益をあげる薬漬け医療を行うところもあり、社会問題となっていたのだ。

 しかし、その後、国は薬価のルールを変更。実際に医療機関に納品されている市場価格を調査し、薬価差益がほとんど出ない仕組みにしたため、今では薬漬け医療はずいぶんと解消している。