テスラを正当に評価できない日本は、時代に取り残されないかPhoto by Shinji Nakao

メディアはいまだにMaaSやCASEを理解していない

 自動車業界ではMaaSやCASEなどのキーワードがメディアを飛び交うが、じつはこの言葉をもっとも「理解」していないのは、我々国内の経済界、ジャーナリストやメディア業界なのではないか。

 この疑問を持ったのは、「日本カー・オブ・ザ・イヤー2019-2020」で、テスラ モデル3が1次選考の10台に入らなかったからだ。モデル3は、英国とスイスにおいて本稿執筆時点で最新年度のカーオブザイヤーを受賞している。

 EUカーオブザイヤーでモデル3は、1位とは40ポイントほどの差で2位を獲得している。オーストラリアでは、EV部門ながらやはりイヤーカーを獲得し、各国の自動車雑誌などが主催するイヤーカーでもモデル3が選出されている例がある。

 また6月10日には、EVセミ・トラックの量産化が報道され、テスラの株価は一時1000ドルを超えた。これによりテスラは時価総額でトヨタを抜き、自動車メーカーとして世界1位に躍り出た。世界中の自動車業界が新型コロナウイルスの逆風にさらされている中とはいえ、このニュースは、ニューヨークポストやウォールストリートジャーナルが大きく報じた。一方、国内では日経新聞が終値ベースで「トヨタに迫る」と報じる程度だった。

 こうした温度差はなぜ生まれるのか。もちろん、グローバルな視点やスタンスがすべての正解とは思わないが、海外イヤーカーの結果や株価といった客観的な事実について、冷静な分析は必要だろう。

テスラは販売台数の選考基準を満たしていた

 筆者は、ITやセキュリティの他、技術系を中心に自動車業界での取材活動も行っている。メーカー広報、車両開発スタッフ、ジャーナリストらとも話をすることもある。まず、テスラが1次選考に漏れた理由を筆者なりではあるが考察してみたい。

 選ばれなかった理由として最初に浮かんだのは、モデル3発売のタイミングによって選考対象にならなかった可能性だ。カー・オブ・ザ・イヤーの選考対象となる車両は、前年の11月1日から翌年の10月31日までに発表された車両だ。また、テスラの選考に関係ありそうな項目として、年間500台以上の販売が見込まれる車両という規定と、選考委員に試乗やテスト、資料提供されることという項目もある。

 テスラは、日本国内での販売数を公表していない。輸入車協会(JAIA)が発表する数字にも、社名では確認できず「その他」で集計された数字から類推する形になる。2018年11月1日から2019年10月31日までの「その他」の販売台数は989台。すべてがモデル3ではないが、国内でモデル3の納車が始まった8月、9月ごろの数字をみると、8月までの月販が20~40台だったものが9月から300台近くに跳ね上がっている。

 「その他」のすべてがモデル3ではないとしても、増えた分のほとんどはモデル3とみていいだろう。10月も200台を超えているので、「年間500台の販売が見込まれる」は十分にクリアしているはずだ。そもそも、条件は「見込み」なので実績である必要はない。