ベトナム 2020年6月23日

【緊急レポート】言葉の通じない異国でコロナ騒動。
ベトナムの日本人社会ではどんな動きがあったのか?

海外では日本以上にソーシャルメディアへの依存度が高い

 ここでのもう一つのキーワードは「ソーシャルメディア」である。

 猪谷さんは、普段から自分のブログやフェイスブックを毎日のように更新し、その時の様子を伝えている。隔離中もそれは続けていた。
「差し入れをしてくれた人へのお礼のつもりで、Facebookにそれを書くと、別の人から差し入れが届くんです。差し入れを催促するつもりで書いたわけではないし、『お金を払いますよ』というのですが、誰も受け取ってくれませんでした。中には『私から届いたことは内密にしてください』と言いながら、差し入れをしてくれた人もあります。ネットメディアはすごいなと感じました」

 そもそも、情報に対する姿勢が日本と海外ではかなり異なる。日本にいると、日本語で情報がふんだんに入ってくるが、ベトナムではそうはいかない。ベトナム語がスラスラ読める在住者はごく一部だ。日本語の情報源に対する依存度は高い。

 一例として日本語フリーペーパーをあげよう。私自身が携わっていたフリーペーパーは、おそらくベトナムの日本人在住者の90%以上が読んでいただろう。毎月の日本人在住者数を超える部数を印刷していたが、それでも月末には在庫がなくなっていたほどだ。私がベトナムで自己紹介をするときに媒体名を言って、「それ何ですか?」と聞き返されたことは、一度もなかった。日本で国民の90%以上が読んでいる雑誌は存在しない。

 今も日本語フリーペーパーはあるが、日本国内と同様、ベトナムの日本人社会でも主流はインターネット上のメディアに移りつつある。ベトナムでは、日本語で得られる情報の絶対量が少ないだけに、ウェブサイトやブログ、そしてFacebookやTwitterなどのSNSで入ってくる情報は、日本のそれ以上の重みがある。

 猪谷さんは、彼のブログやFacebookで情報を発信し続けていたため、彼の状況を知る人が多かった。差し入れが届いた理由の1つはそれだろう。外出が制限される中、レストランが宅配サービスの宣伝ができたのも、自宅にいながらにして、パソコンやスマホで閲覧できるネット媒体の存在抜きでは考えられない。

情報を慎重に吟味・取捨選択することが欠かせない

 一方で、インターネット上で流れる情報は、誰でも発信できるだけに、読む時に注意が必要だ。そんな中で、コロナ情勢を的確に整理し、毎日のようにTwitterで発信を続けていた人がいる。ベトナムで弁護士業を営む工藤拓人さんだ。彼のTwitterは私が毎日目を通していた情報源の1つである。

 「元々Twitterなどのソーシャルメディアでベトナム情報を発信していたんですよ。テト休み後の初期段階では、ベトナムのコロナ感染者は少なく、私も日本語の情報を追っているだけでした。しかし次第にベトナム国内の感染が広がるにつれ、危機感を持つようになったんですね。そこで『より迅速で正確な情報を発信したい』と思い、自分でもベトナム語・英語の情報を確認して、Twitterでお知らせするようになりました」

 コロナ騒動のような状況下では、故意に嘘の情報を流す愉快犯のような人も出てくる。私が見た中で驚いたのは「ハノイでは外出自粛令が出た後、外出している市民を見つけると、公安が射殺している」と発信しているハノイ在住日本人がいたことだ。

 私自身もヒヤリとした経験をしている。約3週間ぶりに感染者が確認された3月6日の翌日、スーパーに買い物に行ったところ、食料品を買いだめに来た人が多く、レジでは数時間待たされる状況だった。これをFacebookに投稿したのだが、同じ日・同じ時間帯に、そのすぐ近くのスーパーに行った友人のブログを読むと「普段よりも客は多いが、レジ待ちはせいぜい15分程度」だったそうだ。「個人が体験した事実」を一般化してはいけないということを、改めて痛感した。

3週間ぶりに感染者が確認された翌日、スーパーに買い出しに来た人。インスタント麺を大量に買い込んでいる【撮影/中安昭人】

 工藤さんがTwitterで発信していた内容の元にしたのは、信頼できる情報源を元にした感染者数や政府の動向である。
「3月、4月にはベトナムも社会隔離の状況となり政府の規制についてみなさんが敏感になっていったので、私も不正確な情報を流して混乱を招かないように、情報源や翻訳の正確性には非常に気を遣っていました。結果的に参考にしていただけた日本人の方がいらっしゃったのであれば嬉しいです」

 日本以上に日本語の情報源への依存度が高い我々ベトナム在住日本人は、今回のコロナ騒動を通して、そのありがたさを享受すると同時に、それを利用するときの注意点も学んだ気がする。


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