カンボジア 2020年6月22日

【緊急レポート】カンボジアと「新型コロナウイルス」
小さな国の大きな賭け

朝日新聞のマニラ支局長などを経て2009年に単身カンボジアに移住。現在は現地のフリー ペーパーの編集長を勤める木村文さんが、クルーズ船「ウエステルダム号」受け入れで世界を驚かせたフン・セン首相の思惑と、市中感染を逃れ、ウイルス封じ込めに成功したカンボジアの現状をレポートします。

2月5日、フン・セン首相はコロナ禍の中国・北京に乗り込んだ

 今年2月、中国・武漢で初めて確認された新型コロナウイルスの感染が中国で猛威を奮っていたころ、カンボジアのフン・セン首相のある行動が、世界を驚かせた。

 国際会議で韓国を訪れたフン・セン首相が、「都市封鎖されている武漢を訪れて、帰国できずにいる現地のカンボジア人留学生を励ましたい」と、言いだしたのだ。その願いは中国当局に却下されたが、首相は2月5日、中国・北京を訪れて習近平国家主席、李克強首相らと会談した。

 中国側は、フン・セン首相を「新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから初めて中国を訪れた要人」として手厚くもてなした。フン・セン首相も、中国側が用意したマスクすら着けず握手をし、武漢から戻ったばかりという幹部とも会談する様子が報じられた。

 カンボジアでは、首相の中国訪問に先立つ1月27日、初めての感染者が確認されていた。武漢から、カンボジア南部シアヌークビルを訪れた60歳の中国人男性だった。ただ、男性から感染が広がることはなく、2月10日には完治した。

 このころフン・セン首相は、国民に新型コロナウイルスを過度に恐れないように、と呼びかけていた。報道によると、1月末の演説で「本当の病はソーシャルメディアに流れる誤った情報に基づく恐怖心だ」と述べ、自分はマスクをつけない姿勢を貫いた。

 カンボジアは日本以上に、「忖度」と「同調圧力」の強い社会である。1月末から2月にかけて、国内感染者1名のみ、という状態が続くと、首相の発言を聞いたかのように街からマスク姿が消えた。マスクを着けないことが政府の方針ととらえ、反政府だといわれないようにマスクをはずしていた人もいたようだ。

 新型コロナウイルスについてさまざまなことが明らかになった今から思えば、何もかもが間違った行動である。それでも幸運なことにカンボジア国内で感染は広がらず、フン・セン首相の自信は深まった。

世界を驚かせた、クルーズ船「ウエステルダム号」の受け入れ

 そして2月13日。フン・セン首相は、さらに世界を驚かせる行動をとった。クルーズ船「ウエステルダム号」の受け入れである。

 ウエステルダム号は、乗客1455人と乗員802人を乗せ、香港から横浜港へと向かっていた。しかし、新型コロナウイルスの感染者がいるのではないかという噂が立ち(船側は否定)、日本を含む5カ国・地域で寄港を拒否されていた。

 フン・セン首相はこのクルーズ船を、カンボジア唯一の国際深海港であるシアヌークビル港に迎え入れることを発表。2月13日、ウエステルダム号は港に着岸した。

 報道によれば、まず、船内で体調を崩していた20人が新型コロナウイルスの検査を受けた。陰性の結果が出て、ほかの乗客も14日には下船を開始。乗客たちは下船後、チャーター機でプノンペンへと向かい、そこからそれぞれの国へと帰路についた。

 乗客のうち最も多かったのはアメリカ人で650人余り。続いて、カナダ人、英国人、オランダ人などだった。乗員はほとんどがインドネシア人とフィリピン人だったという。

 14日、メディアを引き連れてシアヌークビル港を訪れた首相は、にこやかに乗客を出迎えた。行き場を失っていた乗客たちの安堵の笑顔を背景に、「これが国際的連帯というものだ」と高らかに語る首相の姿が、世界にニュース配信された。首相は、プノンペンに到着した乗客たちに、公共バスを利用した「市内観光」までプレゼントしている。

 国内には「もし感染者がいたらどうするのか」という不安が広がっていたが、それを公然と口にする者はいなかった。フン・セン首相が率いる与党・人民党は、2年前の総選挙で国民議会の全議席を獲得。最大野党だった救国党は総選挙前に党首の逮捕により解党されており、政権に批判的なメディアも廃刊や編集長交代に追い込まれていた。野党も、権力監視をするメディアも不在な国だからこそ、フン・セン首相の大胆な行動は可能であった。

順調に経済成長していたプノンペンの街。2020年の経済成長率は内戦終結後初めて、マイナスになるとも予測されている【撮影/木村文】

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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