カンボジア 2012年9月4日

カンボジアに暮らして知る「この国の1ドル」

 カンボジア人運転手が5ドル寄付してくれたことの意味

 華やかな海外投資のサイトに、1ドル、2ドルのちょこまかした話をなぜ書くのか。

 それはカンボジアのごく普通の人々にとって、「1ドル」が何を意味するのか、を伝えたかったからだ。「体感経済」とでもいおうか、それを知っているのと知らないのとでは、庶民生活へのまなざしが全く違う。マクロなデータで語られがちな経済成長の読み解き方が変わる。

 庶民とはすなわち、その国の経済を形作るうちで最も分厚い層の人々だ。経済的に頂点にある一握りの富裕層や特権階級が変化の兆しを作るにしても、その国の経済を根本から変えてゆくのはいつの時代も庶民だ。彼らのお金の遣い方、稼ぎ方を知らずして、その国は理解できないだろう。

 東日本大震災が発生した直後、プノンペンの日本大使館にはカンボジアの人々から3000万円以上の義援金が寄せられた。その中でこんな話を聞いた。

 モトドップの運転手が日本大使館に、手紙とともに5ドルを握り締めて寄付にやってきた。手紙には「ほんの少しですが、心の底から日本の友人のみなさんと悲しみを分かちあいたいと思い、寄付します」と書いてあった。彼だけではない。街角のチャリティイベントで、モトドップやトゥクトゥクを降りて、ポケットからしわくちゃの1ドル札やリエル札を出して寄付してくれる運転手たちがいるのを、何度も見た。

 5ドルともなれば、人によっては1日の売り上げにも相当すること。モトドップで1回客を運んだだけでは1ドルにも満たないこと。私自身が値切っているからよく知っている。それでも、そのお金を日本に寄付することを選んだ彼らに、私は深い敬意を抱かずにいられない。お金の遣い方は、人の生き方そのものだと思わされる。

 モトドップやトゥクトゥクに乗ると、ホコリや排気ガスを全身にかぶる。1回乗れば、髪はぱさぱさ、服にも顔にもうっすらとホコリがたまる。プノンペンには、トゥクトゥク並みの値段で乗れるタクシーも出てきたが、なぜかそれは「つまらない」と感じ、ほとんど使っていない。

 モトドップやトゥクトゥクで、彼らと同じ雨に打たれ、風にさらされることが、この国で暮らしていることのささやかなあかしに思えるからかもしれない。

大事なバイクはきれいに使う。なぜなら、中古バイクとして高く売るため。町のあちこちに、バイク洗い屋さんがある【撮影/木村文】

(文・撮影/木村文)

筆者紹介:木村文(きむら・あや)
1966年生まれ。国際基督教大学卒業後朝日新聞入社。山口支局、アジア総局員、マニラ支局長などを経て2009年に単身カンボジアに移住、現地発行のフリーペーパー「ニョニュム」編集長に(2012年4月に交代)。現在はフリー。


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