橘玲の日々刻々 2012年9月4日

[橘玲の日々刻々]
公務員という「安全な生贄」

 法治国家の原則は、「疑わしきは被告人の利益に」です。匿名のアンケートに「自殺の練習をしていた」という回答があったとしても、処分を下すためには、アンケートの回答者を特定し、その生徒が伝聞ではなく自ら自殺の練習を目撃したことを確認したうえで、その証言によって“加害者”の生徒が事実を認めることが絶対の条件になります。そうでなければ、生徒の人権に配慮するのが行政官である教育長の正しい態度なのです。

 いじめ自殺の調査について釈明するのが教育長ばかりで、それ以外の教育委員(民間人)がいっさい表に出ないことも批判されました。教育委員会制度が形骸化しているのはそのとおりでしょうが、だからといって個々の委員をバッシングすれば問題が解決するわけではありません。大衆が求めているのはスケープゴートであり、民間人(医師や地元企業の経営者)が批判の矢面に立てば仕事や生活が成り立たなくなってしまいます。そうなればもはや誰も教育委員の職を引き受けようとはしないでしょうから、制度を維持するためには、市の職員が“生贄”になるほかはないのです。

 今回の事件が後味が悪いのは、マスメディアがそのことをわかったうえで、“安全な生贄”として教育長を叩いていたことです。それが私刑(リンチ)を招いたことで、マスメディアはもはや、生徒や学校だけでなく行政を批判することもできなくなってしまいました。

 こうしていじめ自殺の犯人探しはタブーとなり、やがては事件の存在そのものがメディアから抹消されることになるでしょう。

           週刊プレイボーイ 2012年8月27日発売号に掲載

 

(執筆・作家 橘玲)

<Profile>
橘 玲(たちばな あきら)
作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。最新刊『(日本人)かっこにっぽんじん』(幻冬舎)が発売中。ザイオンラインとの共同サイト橘玲の海外投資の歩き方』を企画・執筆・編集。 

 

 

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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