ハーバード大学進学者を生み出す
グローバル教育を実践

海城中学高等学校

都内屈指の進学校である海城中学高等学校。約30年に及ぶ教育改革が進展し、新しい人間力と学力を育む土壌がつくられている。近年はグローバル教育にも力を入れ、帰国生の受け入れをスタート。今春、ハーバード大学合格者を輩出するという成果を出した。

 海城中学高等学校は、創立100周年を迎えた翌年の1992年から教育改革をスタート。“国家・社会に有為な人材を育成する”という建学の精神の下、社会の変化に対応できるリベラルでフェアな精神を持つ「新しい紳士」の育成に努めてきた。同校が考える“有為な人材”とは、「新しい人間力」と「新しい学力」をバランスよく備えた人間のことだ。

「新しい人間力」とは、他者と建設的な対話をしたり、協力して何かを成し遂げるコミュニケーション力・コラボレーション力のこと。「新しい学力」とは、自ら課題を設定して情報を収集し、分析してソリューションを導き出し、それを分かり易く周りに伝える表現力のことをいう。

 同校では、その「新しい人間力」を育成するため、グループで課題を解決しながら、人間関係を構築する能力を学ぶ「PA(プロジェクトアドベンチャー)」や、演劇的手法を用いて人間関係力や創造性を涵養(かんよう)する「DE(ドラマエデュケーション)」という体験学習を導入。また「新しい学力」を付けるために、中1~中3で実施する探究型の「社会科総合学習」の授業や、選択制の特別講座「KSプロジェクト」などを開発した。

体験学習の一つ「DE(ドラマエデュケーション)」では、演劇的手法を用いて人間関係力や創造性を育んでいく

 その教育改革の中でも、ここ10年力を入れてきたのがグローバル教育だ。

「教育改革を進める中で、当時、秋田の国際教養大学の初代理事長・学長であった中嶋嶺雄先生に、本校の生徒が書いた卒業論文集を見てもらう機会がありました。そのとき中嶋先生から『これを英語で書けたられっきとしたグローバル人材だ』というお褒めの言葉をいただきました。論文の内容や完成度の高さに驚かれての発言だったのですが、気付かされる部分がありました。それが、本校がグローバル教育に力を入れ始めたきっかけといえます」

 そう説明するのは、グローバル教育の創生に尽力した中田大成校長特別補佐だ。

 同校では、共生教育の一層の充実を図るという目的の下、2011年から高校募集をやめて、中学から30人の帰国生募集を開始した。12年には「グローバル教育部」を立ち上げ、グローバル人材の育成を本格的に行う体制を整えた。

 帰国生を募集するに当たって、同校では英語圏か否かを判断基準にせず、学校種(日本人学校、現地校、インターナショナルスクールなど)に区別もつけず、入学後は一般生と同じクラスで授業を受けるというスタイルを取った。いずれも多文化共生・協働の能力を育むためだ。

 グローバル教育部では、帰国生支援、英語学習のモチベーション開発、海外研修・留学支援、海外大学進学指導・支援を行い、帰国生のみならず一般生への働き掛けも行った。それと並行して、帰国生たちが中心となって英語でディベートなどを行う「グローバル同好会(後に部に昇格)」が創設された。活動の中心は全日本高校模擬国連大会への出場である。

同校のグローバル部は、今や全日本高校模擬国連大会の常連校
2018年ニューヨークで開催された高校模擬国連国際大会。山田健人さん(当時高校2年)は先輩の欠場で単独出場し、議場内の最優秀賞である事務総長賞を受賞した

「当初は全国大会にも出られなかったのですが、13年から全国大会に出場できるようになり、17年に日本代表として世界大会へ行く資格を得ました。そして18年5月、当時高校2年生だった山田健人君が、ニューヨークで行われた高校模擬国連国際大会に出場し、世界各国の高校生約1500人が交渉力やリーダーシップを競う中で、最優秀賞(事務総長賞)を受賞したのです。日本の男子高校生としては初の快挙でした」(中田校長特別補佐)

 山田さんは、父親の仕事の関係で小学校4〜6年をイタリア・ローマで過ごし、現地のインターナショナルスクールに通っていた帰国生である。海城中学高等学校に入学後は、学年委員や吹奏楽団でリーダーシップを発揮、「図書館を使った調べる学習コンクール」(図書館振興財団)の英語部門で全国最優秀賞に選ばれるなど、早くから主体性を発揮していた。

 高校模擬国連国際大会では、ウルグアイ大使役として、「途上国におけるバイオ燃料の持続可能な生産」をテーマにした会議に参加。持参した付箋を各国大使に渡して意見を伝えたり、そのことを基に議論を進めて相互理解を深めるなど、途上国のまとめ役として活躍。「対立」ではなく日本的な「調和」を深めて、皆が納得する決議案を提出した。いわば強制ではなく共感を生むリーダーシップが評価され、最優秀賞に選出されたのだ。

 帰国後、山田さんは、ハーバード大学の同窓生が優秀な高校生に贈る「Harvard Prize Book」を授与され、それを機に同大学への進学を志し、見事合格を果たした。難民問題を中心とする人権問題に関心があるため、ハイレベルな教授陣の下で政治学などを学びたいという希望があり、20年9月から進学する予定になっている。

「帰国生の受け入れをスタートして10年目になりますが、ハーバード大学合格という結果を出せたのは、これまでのグローバル教育のみならず、PA やDEなどを含めた教育改革全体の成果だと考えています。本校が今、東大や国公立大学医学部の合格実績が高いのは、先輩たちが突破口を切り開いてくれたから。それと同じように、山田君の後を追って、後輩たちが海外大学進学へ向けて、果敢に挑戦してくれることを願っています」(中田校長特別補佐)

 実際に、19年度もグローバル部の後輩たちが高校模擬国連国際大会への切符を手にし(コロナ禍で中止)、一般生を含む複数の生徒が海外大学進学を志望しているという。

 1891年に海軍予備校として始まった海城中学高等学校。かつて進学実績だけを追い求め、「海城の卒業生は(受験戦争で燃え尽きて)東大に入学しても留年率が高い」と揶揄(やゆ)された時期もあったが、約30年に及ぶ教育改革の浸透で、豊かな人間性と知性を育む新たな土壌を構築。卒業生への評価が高い中高一貫校に生まれ変わっている。

海城中学高等学校
https://www.kaijo.ed.jp/
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