コロナ禍の美術館長期閉鎖で見えた、「アート鑑賞」の新潮流コロナ禍のアート界で起こった変化とは? Photo:Christopher Jue/Getty Images

コロナ禍で、多くのイベントが中止や延期に追い込まれた。開催予定だった展覧会が延期になるなど、アートの世界もこうした影響を受けている。一方で、長引く自粛期間中には別の変化も起こった。その場に足を運ぶことが当たり前だった美術鑑賞が、オンラインによって変わりつつあるのだ――。(フリージャーナリスト 秋山謙一郎)

コロナ禍のアート界に見えた
変化の兆し

 いつの時代でも、人は誰しも本物を求めるようだ。

 国技である大相撲、その取組が初めて放送によって伝えられたのは昭和3年(1928年)のこと。昭和天皇の即位の礼が行われた年である。この頃、メディアといえばラジオだった。取組を伝えるといっても、映像があるわけではない。音声のみ、アナウンサーによる実況解説だけだ。直接、観戦しなければわからない迫力が聴取者に伝わりやしない。関係者の間では興行面でも不安があった。当時、こんな声もあったという。

「誰でも(無料で)聴けるようになれば国技館に足を運ぶ客が減るのではないか――」

 だが、そうした心配は杞憂に終わる。ラジオを通して聴こえてくる力士たちの取組に人々は熱狂し、「ぜひ国技館に行ってみたい」と願った。

 音声のみから映像へ――。大相撲中継に再び大きな変化が表れたのは、放送のメインストリームがラジオからテレビに代わろうとしていた頃だ。国技館まで足を運ばずとも、お茶の間で大相撲観戦ができるようになった。

 新聞の観戦記だけだった時代から、ラジオでの音声による実況中継、そしてテレビでの映像による生放送へ。かつて相撲はその格式の高さゆえ、人々にとってまだまだ縁遠い存在だったという。それがラジオ、テレビという新しいメディアによって、身近なものへと変わった。世の人々は、ますます力士たちの生の取組、すなわち「本物」を見たいと思わずにはいられなかった。

 そして令和の今、美術館や博物館の世界、ひいてはアート界全体が、かつての大相撲と同じく登場してまだ日の浅いメディアにより、人々にとってより身近なものになろうとしている。今後、その流れは定着するのだろうか。