橘玲の世界投資見聞録 2012年9月6日

[橘玲の世界投資見聞録]
失業率が深刻なポルトガルでは
旧宗主国と植民地の関係が逆転していた

PIIGSのひとつ、ポルトガルの失業率は15%台

 イタリア、スペイン、ポルトガル、ギリシアなどの国々は、どこも高い失業率に苦しんでいる。統計によれば、ポルトガルの就業者数は2008年の520万人から12年には470万人へと8%近く減り、失業率は7%台から15.7%(12年7月)へと2倍超になった。若年層の失業率が50%に迫るのも、他の南欧諸国と同じだ。

 国内で就職の機会がなければ、海外で職探しをするほかはない。ポルトガルはヨーロッパの片田舎だが、かつては世界じゅうに植民地を有していた。ポルトガル語を話す世界最大の国は、いうまでもなくブラジルだ。

 かつての植民地だったブラジルは、いまや人口2億人(ポルトガルは人口1000万人)を擁する新興国のリーダーで、GDPも1兆6000億ドルと、ポルトガル(2500億ドル)の6倍以上ある「経済大国」だ。

 大学を出ても就職のあてのないポルトガルの高学歴の若者たちは、「夢」を求めてこぞって南米に渡る。そのかわりポルトガルには、成功したブラジルの中間層が観光旅行にやってくる。欧州サッカー選手権(ユーロ2012)の最中、リスボンの繁華街でカナリア色のサッカーブラジル代表のユニフォームを着た集団を見かけると、植民地と旧宗主国の関係が逆転したことをつくづく感じる。

ポルトガル×オランダ戦をカフェで観戦するひとたち。ほとんどがヨーロッパからの観光客 (Photo:©Alt Invest Com)

 リスボンの観光の目玉は世界遺産にも登録されたジェロニモス修道院で、バイシャ地区からはトラムで30分ほどだ。ヴァスコ・ダ・ガマのインド航路開拓とエンリケ航海王子の偉業を称えるために建てられた壮麗な宗教建築で、ポルトガル大航海時代の栄華の粋が集められている。だがこの観光地を訪れるのも、いまやほとんどがブラジル人と中国人の団体旅行、そしてヨーロッパからの個人旅行者だ。

世界遺産ジェロニモス修道院も、訪れるのは海外からの観光客ばかり (Photo:©Alt Invest Com)

 リスボンの街中では、ポルトガル語を話すアフリカ系のひとたちもよく見かける。ポルトガルはアフリカにも植民地を持っていて、16世紀前半には黒人奴隷をブラジルのサトウキビ・プランテーションに売り、そこで生産した砂糖をヨーロッパに輸出し、ヨーロッパの銃器や布製品をアフリカに持ち込んで黒人奴隷を買う「三角貿易」で莫大な富を手中にした。ポルトガル人が世界の海を制覇し、インドのゴアやマカオ経由で戦国時代の日本にまで到達したのはこの頃だ。

 アフリカ最大のポルトガル植民地はアンゴラで、1975年の独立後2002年まで内戦が続いた。植民地時代はポルトガル系アンゴラ人(白人)が50万人を超えたといわれるが、独立後の混乱でその大半が母国に逃れた。アンゴラ内戦が米ソの代理戦争となって長期化すると、アフリカ系アンゴラ人(黒人)の中間層などが難民となって旧宗主国のポルトガルに移住した。

 だが2002年に内戦が終結し、政治的安定(らしきもの)が実現すると、折からの資源高もあって、アンゴラは突如、アフリカ経済の星として注目を集めるようになる。アンゴラは、石油やダイヤモンドなどの世界有数の産地なのだ。

 外務省の海外安全ホームページによれば、アンゴラの内陸部には依然として無数の地雷が埋設されていて、死傷事故が多発している。また都市部には内戦の影響で内陸部から避難民が大量に流入し、首都ルアンダでは都市計画時の想定だった60万人をはるかに超える400万人とも600万人ともいわれる人口が集住している。極端な貧富の差や劣悪な住環境から犯罪が多発し、「最近では外国人の多くが居住し比較的治安が良いとされてきた地域でも強盗事件が発生しており、犯罪被害の多発する時間帯も日中を含め拡大傾向にあり、その対策の困難さが年々増大してきています」と書かれている。

 よほどの覚悟がないとアンゴラには行けそうもないが(私も旅行したことはない)、リスボンでアンゴラ移住の説明会を開くと希望者が殺到するのだという。ポルトガルのひとたちは、いまやブラジルだけでなく、仕事を求めてアフリカにまで渡っているのだ。

 リスボンの街を歩くと、道路のあちこちに積み上げられたゴミの山が嫌でも目につく。財政危機で公的サービスの質が低下し、ゴミの収集が滞っているのだ。

ゴミの収集が滞っているのか、街のあちこちで見る光景 (Photo:©Alt Invest Com)

 街の高台にあるサン・ジョルジュ城からは、夕陽を浴びて紫色に染まる美しい街並みが一望できる。「憂愁」や「黄昏」という言葉がこれほど似合う街もほかにない。

リスボンの街並みとテージョ川 (Photo:©Alt Invest Com)

次のページ>> 狂騒と静寂

海外投資必勝マニュアル&本

海外投資のノウハウが凝縮! ここで紹介しているコンテンツ、書籍はすべて、ネットから購入が可能です。さらに「海外投資実践マニュアル」は「海外投資を楽しむ会」の会員になれば割引価格で購入可能です。

作家・橘玲のディープなメルマガ
発売即重版決定! 橘玲の最新刊【幸福の「資本」論】発売!
橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
橘玲×ZAiONLINE海外投資の歩き方
作家・橘玲がメルマガ配信を開始!
subcolumn下影

ページのトップに戻る

本WEBサイトに掲載している全ての記事およびデータについて、その情報源の正確性・確実性・適時性を保証したものではありません。本サイトの提供情報を利用することで被った被害について、当社および情報提供元は一切の責任を負いませ ん。万一、本サイトの提供情報の内容に誤りがあった場合でも、当社および情報提供元は一切責任を負いません。本サイトからアクセス可能な、第三者が運営するサイトのアドレスおよび掲載内容の正確性についても保証するものではなく、このような第三者サイトの利用による損害について、当社は一切責任を負いません。また、併せて下段の「プライバシーポリシー・著作権」もご確認ください。