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事業のライフサイクルと
自社機能の強弱で撤退を決定

編集部(以下青文字):中期経営戦略では、赤字の原因となった資源部門の投融資残高を3兆円で一定にして、2016年3月末時点で4兆4000億円の非資源部門への投資を増やし、資源と非資源のポートフォリオバランスの見直しを掲げておられますね。

垣内(以下略):資源分野のボラティリティを吸収できるだけのポートフォリオを構築すべく、安定的な収益が期待できる非資源分野の資産を積み増し、資源分野と非資源分野のリバランスを進めています。

 資源分野では投融資残高を増やさない方針ですが、その代わり資産の中身を積極的に入れ替えてほしいと強く言っています。ただ、資源部門が新規投資をしてはいけないというのではなく、三菱商事が競争力を持つ原料炭、銅、LNG(液化天然ガス)に経営資源を集中させ、劣後している事業を売却し、キャッシュフローの範囲内で資産の入れ替えを行うことを求めています。ただしキャッシュフローの範囲内で投資を行う点については、非資源部門も同様です。

 事業には創生期、成長期、安定期、成熟期のライフサイクルがあり、寿命があるので、位置付けをハッキリさせる必要があるとの経営方針を打ち出されています。事業の分類は進んでいますか。

 分類はすでに完了しています。人にも等しく寿命があるように、原料にせよ、製品にせよ、どのような事業にも寿命があるということをまず理解せねばなりません。

 事業のライフサイクルを横軸に取り、三菱商事が主体的に機能を発揮できるかどうかの強弱を縦軸として、インキュベーション、成長、基盤、効率化、ピークアウトの5つに事業を分類しました。こうすることで、たとえば成熟期に差しかかっている産業であっても、三菱商事の関与が当該業界や当該会社に成長をもたらすのであれば、まだ成長事業であるととらえ、関与を続けるべきとの判断になるというわけです。

「新」商社論【後編】
 

 事業や企業にはライフサイクルがあり、経済環境の変化に合わせて対応しなければなりません。何もしないで現状維持するのは退化であり、事業の存続意義をゼロベースで問い直す必要があります。

 成熟期に入った事業で、撤退、売却するのはどういう場合ですか。 

 三菱商事が機能を発揮して成長に貢献できるかどうかがポイントになります。三菱商事が関与することによって、まだまだ当該会社が成長するのであれば、とことん関与するし、そうでないなら、当該会社を成長させることができる企業にお任せするのが筋であると考えています。

 我々が機能を果たせないのに、居座るのは自然の摂理に反しますし、当該の会社に対しても迷惑であり、失礼なことだと思います。自分たちの機能が劣化しているのに、天下り場所のようなセンスでいるとすれば大きな間違いです。会社は社会の公器で、みずからの思惑や都合で会社を支配するつもりは毛頭ありません。

 他社に任せたほうがいいという判断で、すでに売却したビジネスはありますか。

 相手企業にとり、三菱商事が関わることで得られるプラスよりも、他社に任せることで得られるプラスが大きいと判断し、売却した例はこれまでにたくさんあります。

 インドネシアのニッケル事業はそのうちの一つですか。

 たしかに2016年4月にインドネシアのニッケル事業を売却しましたが、これにはもう一つ意味があります。

 金属、エネルギーなど資源ビジネスは価格のボラティリティが高く、資源価格の下落により、昨年度三菱商事は巨額の赤字を計上しました。この反省と教訓、新経営方針に基づいて、得意分野に絞り込むという意味でニッケル事業を手放しましたが、けっしてニッケル産業がダメだということではありません。