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平均寿命が飛躍的に延伸する将来、私たちはどのような人生を送るべきか。この新しく生まれた人類の命題に、大きなヒントを示した一冊『ライフ・シフト』が日本でも好評を博している。

これから個人のキャリアプランはどのように描くべきか、女性や高齢者、障がい者など多様な働き手を社会はいかに受容すべきかなど、働き方にまつわる問いは尽きない。今回、アデコの働き方改革プロジェクトのスタッフが、著者のリンダ・グラットン氏にインタビューするため、英国のロンドン・ビジネススクールを訪ねた。

『ライフ・シフト』は
高齢者に向けたメッセージではない

アデコ働き方改革プロジェクトスタッフ(以下、アデコ):先日、グラットンさんの新刊『ライフ・シフト』が日本で翻訳出版されました。今まさに日本が直面する超高齢社会における「生き方」へのヒントが示されています。

寿命100年時代を生き抜くために今やるべきこと<br />インタビュー:リンダ・グラットン【前編】
ロンドン・ビジネススクール 教授
リンダ・グラットン Lynda Gratton
ロンドン・ビジネススクール教授。人材論、組織論の世界的権威。組織のイノベーションを促進する「Hot Spots Movement」の創始者であり、85を超えるグローバル企業と500人のエグゼクティブが参加するコンソーシアム「Future of Work」を率いる。世界で最も権威ある経営思想家ランキング「Thinkers50」では2003年以降、毎回ランク入りを果たしている。2013年ビジネス書大賞を受賞したベストセラー『ワーク・シフト』や『Hot Spots』『Glow』など一連の著作は20カ国語以上に翻訳されている。2016年10月に出版された『ライフ・シフト』では、寿命100歳時代の生き方を示し、大きな話題となっている。

リンダ・グラットン(以下、グラットン):『ライフ・シフト』で描いているのは、想像以上に寿命が延びた社会についてです。「もし100歳まで生きることになると、人生はどうなるのか?」という疑問を読者の皆さんに投げ掛けています。しかし、この本で考えたいことは10年、20年と延びていく引退後の生活をどうするかではなく、人生そのものを100年という単位で捉えたときに、学ぶ、働く、引退するという、これまでの人生における3つの大きなステージをどのように設計するかということです。

 寿命が100年に延びる社会では、そのステージのどこか、あるいは全部を、少しずつ伸ばしていくという単純な変化では対応できません。就職する、引退するという一般的な適齢期も変われば、若者、高齢者といった世代の境界線も変わってきます。私たちが「標準」として信じていたフォーマットが根本的に崩れていくのです。生き方すべてに大きな「シフト」が訪れることは間違いありません。

アデコ:現在は、寿命が延びていくのと同時に、健康寿命も延伸させることが大きな課題となっています。課題設定としては同じ視点に立ったものといえますか。

グラットン:一般的に平均寿命が延びると、社会が高齢化するというイメージがありますね。しかし、私が予測する未来はそういったものではありません。むしろ若々しく生きる期間が長くなるのではないかと考えます。もしかすると、思春期が長くなるという可能性も考えられます。

 また、その若々しさとは、「動けるかどうか」という視点だけではありません。現在、25歳の人の多くは、学ぶことから働くことへステージが移っているはずですが、平均寿命が延びた社会では、30歳でもまだ学んでいる人が珍しくないかもしれません。こうした年齢とステージが一意(ただ一通りに定められること)に結び付かない生き方が広がることで、社会はより多様かつクリエーティブになっていくことでしょう。

アデコ:もはや、「学ぶ→働く→引退する」という3つのステージが不可逆なものではなく、かつ人によっては何度もそれを繰り返すという時代が現実になってくるということですね。

グラットン:『ライフ・シフト』では、「エクスプローラー」「インディペンデント・プロデューサー」「ポートフォリオ・ワーカー」という新しい3つのステージについて論じています。エクスプローラーとは文字通り冒険者のような生き方で、未知の環境を渡り歩き、そこで生きるための新しい知識や技能を得るだけでなく、人との関係を築くことです。インディペンデント・プロデューサーとは、起業家をイメージしてもらえばいいと思いますが、従来の起業家との違いは、事業を生み出すことそのものを目的としている点です。また、このステージに生きる人々は生産活動を通して学習を続けることに特徴があります。最後のポートフォリオ・ワーカーは、先の2つのステージを含むさまざまな活動に、同時並行的に取り組む人々のことです。

 従来の学ぶ、働く、引退するという3つのステージでは、2回しか移行ができませんでした。つまり、就職と定年です。そのタイミングも事実上決まっており、一度それを逃すと、社会から正しい評価を得ることが難しかったのですが、私が示した新しい3つのステージは、収入を得ること、学ぶこと、充実した生活を送ることが、それぞれで統合されています。もちろん、新しい3つのステージにもそれぞれ適齢期のようなものはありますが、基本的にはいつでもどのステージにも立てますし、何度でも行ったり来たりすることができます。