*中編こちら

編集部(以下青文字):経営方針の3つ目である「グローバル」について伺います。2020年に人材領域で世界ナンバーワン、2030年に販促支援ビジネスで世界ナンバーワンという目標を掲げていますが、足元の状況や今後の計画はどうなっているのですか。

峰岸(以下略):2012年3月期の海外売上高は約300億円。全体の売上げは約8000億円でしたから、海外事業の売上げは3・6%ほどにすぎませんでした。

 しかし近年の海外企業のМ&Aなどにより、2016年3月期には海外売上高が5700億円と、全体の売上高に占める割合は35・9%に増加しました。さらに買収したオランダの人材派遣会社の売上げの半分が仮に連結されるとすると、海外売上高は約7300億円となり、全体の売上高に占める比率は約40%になる見込みです。この比率は、おそらく2020年頃には50%程度になっていくだろうと思います。

 過去には『HOT PEPPER』『じゃらん』『ゼクシィ』などを中国で創刊したものの、撤退したこともありました。

 2000年初頭の中国事業の学習は、2010年以降の海外展開の強化に大きく活かされています。具体的には大きく3つあります。

 1つ目は、海外展開の踏み込みレベルを経営として明確に決めたことです。かつて中国に進出した際は、「中国市場が凄い勢いで成長しているからまずは出ていってみよう」というスタンスでした。しかし2010年以降は戦略ターゲットを明確にし、すでにお話ししたように、「2020年に人材領域で世界ナンバーワンになる」としています。そして2014年の株式公開時には約5年で7000億円程度という投資枠も設定しました。

 2つ目は、自前展開ではなくM&A戦略を主軸にしたことです。かつては日本で成功した方法をそのまま中国に持っていきました。たとえば、中国もまるで国内支社の一つという感覚で臨んだ結果、文化も慣習も異なるにもかかわらず、ビジネスモデルから組織モデルまで、すべてを日本のリクルートと同じにしてしまったのです。しかしM&A戦略を主軸にすることで、「買収した企業に対して当社の提供価値は何か」「何によって買収した企業の企業価値を向上できるのか」などの当社の強み、すなわち提供する価値を突き詰めることができました。

 そして3つ目は、買収計画者と実行者を同一人物にしたことです。過去はプランニングとデューディリジェンスと現地経営を別の人材が行っていました。さらに権限委譲も不十分であったため、本社の意思決定に時間がかかるなどの課題がありました。

 しかし現在では買収企業の選定や交渉などのソーシングを行うチームは各事業部門にあり、また買収をプロジェクトした人自身がその買収企業のトップとして現地に駐在し、PМI(ポスト・マージャー・インテグレーション:М&A後の統合プロセス)を実行します。また本社から事業部門に権限を大幅に委譲し、駐在しているトップが中心となって現地で業務執行ができる体制にしています。

 経営方針の4つ目である「IT化」の取り組みについても教えていただけますか。

『SUUMO』『じゃらん』などのプラットフォームの中で法人と個人をマッチングするのが当社のビジネスモデルです。顧客企業の圧倒的多数は中小企業で、約30万社に上ります。これらの顧客企業が当社のプロダクトやサービスを使っていかに収益を上げていただくか。そのための提案力やコンサルティング力が当社の強みであり、それゆえに「リクルートは営業の会社」ともいわれてきたわけです。

 しかし、ITの普及に伴い、ビジネスのやり方は大きく変わってきました。スマホ、クラウド、ビッグデータ、人工知能(AI)、これらが我々のようなビジネスにおいては大変重要なキーワードとなっています。各プラットフォームは情報誌からPCになり、さらにスマホとクラウドの登場によって取り扱うデータは大幅に増え、マシンラーニングによっていままで手作業でやっていたような作業も何百倍、何千倍のスピードで行えるようになりました。

 このような変化の中、プロダクト開発や事業開発など、さまざまな分野でIT化を強力に推し進めることは不可避でしたし、それに伴い、営業マンもITを活用した新たな提案などのスキルセットが求められるようになりました。