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地方の小さな製造業の女性活用が話題を呼んでいる。創業78年。ステンレスねじ業界において国内トップの生産量を誇る静岡市の興津螺旋では、2012年、それまで男性しかいなかったねじの製造現場に初めて女性社員が配属された。「ねじガール」と呼ばれるようになった女性社員はその後着々と増え続け、現在では10人を数える。「私もねじを作ってみたい」という女性社員の一声から始まった試みは、同社の風土や経営の在り方にも影響を及ぼすようになっている。「ねじガール」の活躍は、老舗中小企業の何を、どのように変えたのか。同社の代表取締役社長の柿澤宏一氏に話を聞いた。

「女性活用」で気付かされた
製造現場の安全性

アデコ働き方改革プロジェクトスタッフ(以下、アデコ):現場でねじ作りをする「ねじガール」誕生の経緯についてお聞かせください。

「ねじガール」が会社経営を変えた!<br />現場主導の変革をマネジメントはどうサポートすべきか<br />
興津螺旋 代表取締役社長 柿澤 宏一
1972年生まれ。上智大学経済学部卒業。商社勤務を経て1996年に興津螺旋に入社。ステンレス製ドリルねじの研究開発に取り組み、営業担当、専務を経て、2007年3代目代表取締役社長に就任。座右の銘は「真善美」。

柿澤宏一(以下、柿澤):始まりは2012年でした。新入社員は女性3名だけでした。そのうち事務採用だった女性の1人から「ねじのことをもっと知りたい」「ねじ作りの現場で仕事をしたい」という要望が出ました。それまで「製造現場の仕事は男がやるもの」というのが常識としてありましたが、ちょうど採用現場で優秀な女子学生が目立つようになり、彼女たちでも働ける工場づくりをしなければならないと議論していたところでした。そこで、「これは渡りに船だ」と会社として取り組むことにしたわけです。

アデコ:女性の製造現場への仕事の適性について、心配はありませんでしたか。

柿澤:できるかできないかでいえば、できると思っていましたね。もちろん想定外のことが起こることは考えられますが、実際に女性が働いてみないと課題が見えてこないということも事実です。まずはやってみて、問題があったら改善していこう、それでも難しいということになれば元の体制に戻せばいい――そんな姿勢で取り組み始めました。うちではいろいろな大きさのねじを作っていて、設備も大きなものから小さなものまであります。女性が大きな設備を扱うのは難しいのですが、小さな設備なら使いこなせます。ですので、特別扱いはしませんでしたし、特に心配はありませんでした。

 しかし、実際にその女性が働き始めると、危険な作業工程があることが見えてきました。例えば、金型を削るディスクグラインダーという機械があります。男性社員が働いているときは気が付かなかったのですが、女性がその機械を使っているのを見ると「回転の勢いで手を持っていかれるんじゃないか」と心配になってきました。そこで、危険性の少ないグラインダー用の道具を新たに開発しました。工場内の運搬に使う電動補助装置を導入したのも、女性でも荷物の移動ができるようにと考えてのことです。結果として、男性社員の危険な作業や運搬の負荷も減らせるようになりました。