働き方改革を生産性向上につなげるためには、マネジメントも変わらなければならない。前回はその改革の方向性として、社員の行動をリスクではなく、信頼という視点で捉えるマネジメントシステムの構築の必要性について説いた。本連載の最終回となる今回は、その具体的な形を明らかにし、構築に至る方策と人財サービス会社の役割について考えていく。

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21世紀に求められる
新しいマネジメントモデル

働き方改革はマネジメント改革<br />信頼をベースにした組織をいかにつくるか<br />
アデコ 代表取締役社長
川崎 健一郎
KENICHIRO KAWASAKI
1976年、東京都生まれ。青山学院大学理工学部を卒業後、ベンチャーセーフネット(現・VSN)に入社。2003年、事業部長としてIT事業部を立ち上げる。常務取締役、専務取締役を経て、2010年3月、VSNの代表取締役社長&CEOに就任。2012年、同社がアデコグループに入り、日本法人の取締役に就任。2014年には現職に就任。VSN代表取締役社長&CEOを兼任している。

 「新しいマネジメントモデルを発明することは21世紀の最重要課題の一つである」──。ロンドン・ビジネススクールの客員教授で、戦略やイノベーション研究の泰斗として知られるゲイリー・ハメルは、圧倒的な生産性を誇る企業に共通して見られるマネジメント手法の特徴を「マネジメント2.0」と称し、分析・研究を続けている。

 マネジメント2.0をひと言で言えば、人間の力を信頼し尊重することで、活力ある生産活動を実現しようという考え方である。組織の中で、人は自分の利益を優先し、勝手な振る舞いをしてしまうこともあれば、利他的な判断によって、組織に大きな利益をもたらすこともある。人間が持つこの二面性のうち、ネガティブな側面に着目し、リスク管理を追求したのが官僚的マネジメントであるのに対して、ポジティブな側面に着目し、自由を基盤に個人のパフォーマンスを最大化しようとするのがマネジメント2.0である。

 では、マネジメント2.0とは具体的にはどのようなものか。特徴的な企業として、ハメルが紹介しているのが、米国カリフォルニア州ウッドランド市にあるトマト加工会社・モーニングスターカンパニー(以下、モーニングスター)である。平均成長率が1%程度という業界内にあって、同社は過去20年間にわたって、売り上げ、利益共に2桁成長を続けているという。同社の組織の特徴とは、次のようなものだ。

●上司なる者はいっさい存在しない

●従業員は職場の仲間たちと話し合って、各人が受け持つ責任や仕事を決める

●全員に決裁権限が与えられている

●仕事に必要なツールは、従業員自身で調達しなければならない

●肩書がない。したがって、昇進や昇格もない

●仲間の判断に従って、給料が決まる

 まったくイメージがつかないかもしれないが、ハメルはこうしたマネジメントが実際に存在し、生産性に大きな影響を及ぼしている事実を世界中に見つけ出している。本連載の最終回で、私がマネジメント2.0を取り上げたのは他でもない。この考え方が、私がイメージする働き方改革を実現するマネジメント改革の姿と合致するからだ。