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 人財サービス会社・アデコの特例子会社、アデコビジネスサポートで働く障がい者はおよそ160人。そのうちの80人が、求職者のヒアリングや企業とのマッチングや営業サポート業務といった、アデコのコア業務に携わっている。障がい者が担えるのは単純作業を主体としたバックオフィス業務だけである。そんな先入観を覆す取り組みを進める意図とは何なのだろうか。そして、その成果とは──。アデコの代表取締役社長である川崎健一郎氏に話を聞いた。

障がい者がフロント業務を
担当することは可能か

編集部(以下青文字):グループにおける障がい者雇用の現状についてお聞かせください。

 
障がい者によって生み出された<br />サービスの競争優位<br />
アデコ 代表取締役社長
川崎健一郎
KENICHIRO KAWASAKI
1976年、東京都生まれ。青山学院大学理工学部を卒業後、ベンチャーセーフネット(現・VSN)に入社。2003年、事業部長としてIT事業部を立ち上げる。常務取締役、専務取締役を経て、2010年3月、VSNの代表取締役社長&CEOに就任。2012年、同社がアデコグループに入り、日本法人の取締役に就任。2014年には現職に就任。VSN代表取締役社長&CEOを兼任している。

川崎(以下略):アデコの特例子会社(注1)だったアデコソレイユと、グループ会社であるVSNの特例子会社だったVSNビジネスサポートが統合してアデコビジネスサポートとなったのが2017年7月のことです。それまで特例子会社の社員が担っていたのは、主にデータ入力や封入作業などのバックオフィス業務でした。しかし、障がい者の法定雇用率が上がり(注2)、また業容拡大に伴って社員数そのものが増えていく中で、雇うべき障がい者の数はどんどん増えていきました。障がいのある社員にバックオフィス業務だけを担ってもらうのには限界があると感じていました。

 ビジネスが成長しても、バックオフィス業務が劇的に増えるわけではないですからね。

 そうなんです。雇用に合わせて無理に業務を増やすわけにはいかないし、雇用したけれど仕事はないという状態があってはなりません。もともとアデコグループの仕事は、バックオフィス業務に対して、フロント業務、すなわちクライアント企業や求職者と接する仕事の方が圧倒的に多いんです。割合で見るとほぼ8割がフロント業務です。だとすれば、障がいのある皆さんにもフロント業務に携わってもらうのが合理的である。それが最初の発想の転換でした。

 では、どのようなフロント業務が可能か。クライアント企業を担当する営業業務は、移動が多いなどの理由で難しいだろう。では、求職者のインタビューはどうか。これは電話でできる仕事で、オフィスに出社する必要もありません。そこで、在宅勤務を希望される方を中心にこの業務を担ってもらう。ここからトライしてみようということになりました。

求職者のインタビューとはどのような仕事なのですか。

 一人一人の求職者の職歴、スキル、仕事へのニーズなどをヒアリングして、データベース化していく仕事です。その先には、それぞれの条件やポテンシャルに合った適職を紹介する業務があります。いわゆるマッチングです。

 もちろん、全ての社員がすぐにできる仕事ではありません。専門的なトレーニングによってスキルを身に付けた10人ほどの社員に最初にインタビュー業務に就いてもらいました。その後、2年ほどの間に全国でおよそ40人の社員がインタビューの仕事ができるようになっています。アデコビジネスサポートに勤務する障がいのある社員の数が160人くらいですが、そのうちインタビューができる社員を含め営業サポート業務についている社員が80人いるので、約半数はフロント業務に就いていることになります。

さらに現在は、インタビュー業務に携わる40人のうち半数以上にあたる24人がマッチングを担当するところまで来ています。マッチングはインタビュー以上に難しい仕事です。単にスキルや希望に合った職種を紹介するのではなく、求職者本人も気付いていないような資質を見極め、適職を提案していく仕事だからです。当然トレーニングが必要となり、早くても半年、長い場合は1年くらいのトレーニングを経た人だけが担当できる業務です。

注1)
障がい者の雇用を促すため、設備や制度面で特別な配慮を行う会社のこと。この認定を受ければ親会社およびグループ全体として障がい者を雇用したものとして、雇用率に算定される
注2)
従業員数45.5人以上の民間企業を対象に、2018年4月から障がい者の雇用率が2.0%から2.2%に引き上げられた。21年4月までにはさらに2.3%に引き上げられる予定