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特集『夏だ!スキルだ!3日で絶対習得シリーズ2020』(全30回)における「統計学」(全6回)のその1では、ベストセラーとなった『統計学が最強の学問である』シリーズの著者、西内啓氏が登場。統計学こそが最強の学問であり、また最強のビジネルツールでもある理由を説く。

「週刊ダイヤモンド」2017年3月4日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

統計学を学ぶことで手に入る
AI時代にこそ必要な武器

 データ分析の目的は二つあります。「予測」と「洞察」です。

 人工知能(AI)が強いのは、このうち予測です。囲碁AIが勝利確率の高い手を予測するように、「この製品は今年幾つ売れるか」「在庫をどれほど持てばいいか」といった疑問に最適解を導く。

 これに対して洞察は、「どうすれば、この製品が売れるか」に対するアイデアです。イメージやスペックなどさまざまな要素がどう関連し、因果関係があるかを見て、何がどれぐらい販売数に影響するかを見極める。打ち手の選択肢は、それこそ膨大にあります。

 組み合わせはランダムですから、全パターンを試して最適解を導くわけにはいかない。センス、アートのような世界ともいえます。

西内啓Photo by Toshiaki Usami

 病気のリスクで考えてみましょう。AIは、電子カルテやセンサーによるデータなどを基に、ある人が特定の病気にかかる確率をきちんと予測できるようになるでしょう。「1万日後に90%」といったようにです。

 しかし、この予測がどれほどの意味を持つのか。その人にとってより必要なのは洞察の方です。何をすればもっと健康でいられるか、生活習慣を改善するならば何か。そこに答えを探していくことが求められます。

 AI時代には「統計学」は不要になるのではないか?そんな疑問を持っている読者がいるかもしれませんが、そんなことはありません。問われるのは予測ではなく、洞察の方なのですから。

 下図を見てください。

 AIの価値について、さらに考えてみましょう。AIの価値というのは、「総負荷量」「同質性」「制御性」「責任性」「感情性」を基準に判断される。私はそう思います。

 この項目リストは裏返せば、統計学の仕事は何か、つまり人間の仕事は何なのかを考えるチェックリストにもなる。

●まだそれほど世の中を煩わせてはいない(新規性がある)ため、コストがペイしにくい
●同質でなく、ケース・バイ・ケースの部分が多い(多様性がある)
●さまざまな打ち手があって自由度が高い(制御性が小さい)
●誰かが責任を負う(責任性)
●人が親身になってやってくれた方がよい(感情性)

 こうした分野は、間違いなく統計学の出番です。

 結局のところAIは、有限な選択肢、組み合わせの中で、最適解を選ぶ。枠を決めることで問題を解く。対して洞察は、その枠を乗り越えることに他ならないのです。