「#MeToo」までの女性たちの闘いの記録、勇気の美談だけでは済まない声を上げることで負うリスクや副産物も描いており、単なる美談で終わらせていない(写真はイメージです) Photo:PIXTA

レビュー

 2017年10月、「ニューヨーク・タイムズ」紙が「ハリウッドの大物プロデューサーによる性的暴行」を報道した。これをきっかけに、性暴力の告発運動である「#MeToo」が巻き起こり、アメリカに留まらず世界的ムーブメントへと発展した。女性たちはソーシャル・メディアに#MeTooタグを付け、次々と過去に受けた性被害を告白していった。「#MeToo」運動は「自分が発言することが(誰かの)行動に繋がる」という、価値観の転換を促した。

『その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い』書影『その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い』 ミーガン・トゥーイー、ジョディ・カンター著 古屋美登里訳 新潮社刊 2365円(税込)

 本書『その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い』は、記事を担当したふたりの女性記者によるノンフィクションである。約400ページに及ぶ重厚な作品だが、あまりの展開に一気読みしてしまった。ハリウッドの有名女優やアカデミー賞に輝いた名作も多数登場し、まるで映画作品さながらであるが、胸を締め付ける内容の実話だ。

 本作は「女性たちによる勇気の物語」に変わりない。一方で、声を上げることで負うリスクや副産物も描いており、単なる美談で終わらせていないところが素晴らしい。要約には入れられなかったが、「#MeToo」に後押しされた女性が「個人的なけじめ」として告発を決意する話も登場する。彼女は図らずも「時の人」に祭り上げられ、平穏な市民生活を脅かされてしまう。昨今問題となっている、SNSの誹謗中傷に通じるものがあると感じた。