橘玲の世界投資見聞録 2012年9月12日

[橘玲の世界投資見聞録]
エーゲ海の豊かな島・クレタ島で
ギリシアという「国」について考える

解決不可能なギリシア危機

 ギリシア危機は、この9月が正念場だという。私がクレタを訪れたときは「6月の再選挙が正念場」といわれていたから、この国はほぼ3カ月ごとに国家破産の「行事」を迎えていることになる。

 なぜこんなことになるかというと、ギリシア危機は原理的に解決不可能だからだ。

 ギリシアの「9月危機説」を最初に報じたドイツのシュピーゲル誌によれば、国際通貨基金(IMF)などの融資履行条件となった2020年までの公的債務削減目標をギリシアが達成できないのは明らかで、EUの指導者はギリシアのユーロ離脱は管理可能と判断しているという。

 事実、ギリシアのサマラス首相は、欧州連合(EU)などに約束した2014年の財政緊縮策実施期限を不可能として、ドイツのメルケル首相などに、2016年まで2年間の期限延長を求めている。だがメルケル首相はドイツ国内の強い世論の反発もあり、ギリシアへの支援増額にはきわめて慎重だ。ギリシア政府が期限までに財政緊縮策を実行できなかった場合、資金不足は180億ユーロ程度と推定されているが、それをどのように調達するかの道筋が見えないことが市場の不安を誘っている。

大通りを1本はずれるとこんな感じ。長期のバカンス客が減って部屋はVacantの看板ばかり (Photo:©Alt Invest Com)


「問題」を話し合う以上、それが「解決」されることが前提となっている。財政緊縮によって景気が悪化すれば税収が落ち込み、さらなる財政緊縮が必要になる。その悪循環を避けるには、財政の健全化によってギリシア経済が力強く回復しなければならならない。

 だが現実には、ギリシアの経済成長率は2008年からマイナスに落ち込み、2010年はマイナス3.5%、11年はマイナス6.9%、12年はマイナス4.8%という惨状だ。EU主導の財政緊縮路線に反対する野党や労働組合は、このまま「財政健全化」を続けても景気は悪くなるばかりだと主張する。彼らにとっては、財政健全化とは富めるヨーロッパがギリシアに与えた「懲罰」以外のなにものでもないのだ(こうした国民感情は、第2次世界大戦でナチスドイツがギリシアを占領したという歴史的事実によってさらに増幅される)。

 それでは、ギリシアはユーロから離脱するのだろうか。もちろん未来は誰にもわからないが、その可能性は低いと思う。

 新通貨の導入は国民の生活に直結する大きなイベントで、その実現には、「未来はよくなる」という期待が不可欠だ。ギリシア(ドラクマ)やスペイン(ペソ)、イタリア(リラ)の国民が喜んでユーロに参加したのは、不安定な自国通貨よりもEUを後ろ盾にした共通通貨のほうがずっと有利だと考えたからだ。逆にイギリス(ポンド)やスイス(スイスフラン)など、すでにじゅうぶんに強い通貨を持つ国は、国民のあいだでユーロ参加への合意をつくることができなかった(そしてこの判断は正しかった)。

 そう考えれば、ユーロを離脱してドラクマに戻すためには、ギリシアのひとびとの大半が「自国通貨を復活させるべきだ」と確信できなければならない。机上の空論でドラクマによる経済回復を喧伝する学者はいるが、それをひとびとが信用するかどうかは別だ。再選挙前ですでに2割の銀行預金が引き出されたことを考えれば、「ユーロ離脱」を掲げる政党が政権に就いたとたん大規模な取りつけ騒ぎが起きて、経済そのものが崩壊してしまうだろう。

ヴェネチア支配の時代の要塞の跡 (Photo:©Alt Invest Com)

 だとしたらギリシア問題は、3カ月ごとに「危機」を迎えながら、このまま延々と続いていくほかはない。いまではスペインの財政危機が深刻化して、ギリシア問題はEUの主要議題にはならなくなっている。ユーロ離脱も経済回復も不可能だとすれば、ギリシアはいずれユーロにとどまったまま財政破綻し、そのまま放置され、忘れられていく運命にあるのかもしれない。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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