三菱陥落#9Photo:onurdongel/gettyimages

三菱商事のメッキが剥がれかけている。先達が足場を固めた日本の電力業界や鉄鋼業界が、世界的な産業構造の変化の波にのまれて揺れている。新規ビジネスの創出力も衰えが否めない。本来、三菱商事には「競合はもちろん、行政をもしのぐ視座の高さ」でビジネスを創出する気構えがあったものだが、最近は目先の実績にとらわれ、視野が狭まっているのだ。特集『三菱陥落』(全10回)の#9では、三菱商事が直面する“危機”に迫る。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)

「冬の時代」の再来か
商事に“異次元の危機”到来

 三菱商事の2021年3月期の当期純利益は前年同期比62.6%減の2000億円となり、ついに商社業界の“利益首位の座”を伊藤忠商事に明け渡すことになりそうだ。

 減益幅の大きさもさることながら、もっと深刻なのはこの危機が一過性のものではないということだ。実は今、三菱商事は1990年代後半の「商社冬の時代」の再来を予感させる、“厳冬期”に足を踏み入れかねない状況にある。

 三菱商事は石油やLNG(液化天然ガス)の開発などを行う天然ガス事業から、鉄鋼製品等を扱う総合素材事業、三菱自動車を抱える自動車・モビリティ事業やローソンを展開するコンシューマー産業事業まで、まさにありとあらゆる産業に関わっている。

 この裾野の広さは確かに、他の商社にはない三菱商事の強みだ。しかし、地政学リスクの高まり、グリーンニューディール、DX(デジタルトランスフォーメーション)に加えて、コロナ後の社会・経済の秩序も激変し、世界の変化の波が日本の産業界の一部分にとどまらず、全体をのみ込もうとしている。本来、そうしたメガトレンドの変化こそ商社の商機となるはずなのだが、三菱商事は国策と結び付いてきた商社だけに、顧客である対面業界の不況がストレートに業績に響いてしまう。

 分かりやすいところでいえば、トヨタ自動車が「100年に1度の大変革の時代」と言ってはばからない自動車業界だ。CASE(電動化や自動運転などの四つの技術トレンド)への対応はもはや避けられず、日系メーカーが競争力の源泉としてきた「部品と部品の微妙な擦り合わせが必要な、メカニカルなものづくり」の価値が相対的に低下しつつある。

 自動車メーカーは移動というサービスの提供を真剣に考えねばならなくなり、自動車部品メーカーは欧米企業の後塵を拝してきたソフトウエアや半導体といった技術の蓄積が急務になっている。これまでの収益モデルが成り立たなくなる日は近く、正真正銘、100年に1度の変革期に直面しているのだ。

 小売業界における勝ち組といわれてきたコンビニエンスストア業界も、あらためてビジネスモデルの転換について考え直す必要に迫られている。

 数年前、セブン&アイ・ホールディングスの会長だった鈴木敏文氏が声高に唱えていた、インターネットやリアル店舗などの複数の販売チャネルを連携させて顧客を取り込む「オムニチャネル」は、いまやすっかり「忘れられた戦略」になった。しかし、外出自粛によってネット販売の利便性が再認識されたウィズコロナ、アフターコロナの世界では、コンビニとてリアル店舗ばかりに固執してはいられないだろう。

 だが三菱商事にとって本当につらいのは、自動車やコンビニのみならず、三菱商事に長く“既得権益”をもたらしてきた日本の基幹産業が、時期を同じくして大きく揺れていることだろう。