前回 、日本企業は自動車業界という大市場で、動力(ハイブリッド技術)、ICT、エネルギーの三つの軸により構成される夢のような空間の先頭を走っていると述べた。その中でも最先端を走っているのはトヨタ自動車である。自動車にまつわる夢空間の創出は、低迷する日本に光をもたらす動きになりえる。我々はこうした夢のある世界を、政策や戦略に変える議論をポジティブにしていくべきだろう。日本は自虐的な姿勢から脱却し、ポジティブシンキングにより、自らの強みを伸ばすことに専念すべきである。

革新企業としてのトヨタ

 自動車業界を取り巻く新しい流れの最先端を走っているのは、国内で見ても、世界的に見ても日本であり、トヨタである。動力系については、ハイブリッドからプラグリン・ハイブリッドをラインアップ化し、自動車用の情報通信システムでは、いち早く独自のブランドを立ち上げ、高性能のシステムを商品化している。また、スマートコミュニティの世界でも、複数需要家を含んだコミュニティベースでの実証事業などを手掛けている。筆者の知る限り、上述した夢の3次元空間に向けて、これだけの取り組みを行っている例はない。

 先日、筆者が日経新聞に書評を書いた リンクトインの社長の『スタートアップ~シリコンバレー流成功する自己実現の秘訣~』(日経BP社)によれば、「企業が持続するためには、常にベータ版としての意識が必要だがデトロイトの自動車会社の幹部からは微塵もそうした雰囲気は感じなかった」と書かれていた。しかし、日本を代表する大企業の中には、そうした懸念が当てはまらない例もあるようだ。

 トヨタというと、TPS(トヨタ・プロダクション・システム)に代表される生産性の高さが強調されがちだ。しかし、トヨタには自動車業界の革新を引っ張ってきたというもう一つの顔がある。スカイラインGT-Rが登場した時代、それと同等ないしはそれ以上に高いステータスを獲得していたのは、トヨタ2000GTだ。