コップのなかに水が半分入っています。これを、「水が半分も入っている」と書くか、「まだ半分しか入っていない」と表現するかで印象は大きく異なります。
将来の原子力発電の比率をめぐる世論調査でも、同じことがいえます。原発に批判的なメディアは「原発ゼロの支持最多」と書き、電力供給の安定を求める経済界の立場を反映するメディアは「原発を容認する意見が半数」と報じます。
世論調査の結果を評価する際には、サンプルの偏りも問題になります。政府の行なった討論型世論調査では、日本の平均と比べて男性の比率が多く、30代以下の若者層が少ないことがわかっています。意見聴取会やパブリックコメントでは「原発ゼロ」が圧倒的多数を占めますが、これはそもそも「反原発」の意思表示をしたいひとが集まるのですから、それを「世論」とするのは間違いです。
2030年時点の原発比率についてメディアが行なった世論調査では、「ゼロ」がおよそ4割、「15%」が3割、「20~25%」が2割となっています。脱原発派が国民の最多数であることは間違いありませんが、原発を容認するひとも半数おり、まさに国論を二分していることがわかります。
ところで、こうした意見の分かれる問題を投票による多数決で決めようとすると、中庸(真ん中)が選ばれることが知られています。原発なしでは日本経済は成り立たないと主張するひとにとっては、「ゼロ」よりは「15%」の方がまだマシでしょう。脱原発を理想としつつも、20年後に全廃するのは非現実的だから、徐々に減らしていくほかはないと考えるひともいるはずです。こうして先進国の民主政治では、原発だけでなくほとんどの社会問題で、どっちつかずの平凡な政策が採用されるのです。
もっともこれは、一概に否定すべきことではありません。政治も人生と同じで、極端な選択よりも中庸の方がよい結果をもたらすことが多いからです。しかしその一方で、「日本を原発立国にすべきだ」(さすがにもういないでしょう)とか、「原発即時全廃」(こちらはたくさんいます)とかの“正論”を信じるひとたちは、凡庸な政府に激しく反発し、社会は不安定化していきます。
原発を止めるためには、世論調査で9割を超えるような圧倒的多数が必要です。現状のような半々のままなら、「中位投票者定理」によって、原発漸減(遠い将来に原発ゼロにする)が落としどころになるでしょう。
それでは、脱原発は不可能なのでしょうか。
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