介護と医療事務受託の最大手として名をはせるニチイ学館が英会話事業に力を入れ始め、テレビCMや地下鉄のポスターなど派手な宣伝活動を展開している。いち早く高齢社会を見据え優良企業として成長してきたにもかかわらず、なぜ、いまさら畑違いに見える事業に多額の投資をするのか。同社が推し進める多角化戦略の実態と課題に迫った。(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本猛嗣)

「株式市場から、これほど強い反発があるとは思わなかった」──。業績発表から3カ月が過ぎた8月末日、齊藤正俊社長は下がり続けた株価のグラフを指でなぞりながら、苦悶の表情を浮かべた。

 ニチイ学館が2011年度決算を発表した翌日の5月16日、同社の株は売り込まれ、一時は前日終値よりも151円安の851円まで下落した。その後も年初来安値が続き、1週間後は約2割安の769円、8月3日には696円まで下がった。

 同社の11年度業績そのものは良好だった。

 売上高は前年度比6.9%増の2573億円で、過去最高を4期連続で更新。営業利益も介護や医療関連など主力事業の好調により、同48.3%増の117億円。3期連続の増益となった。

 株式市場が厳しい評価を下したのは11年度業績に対してではない。それは12年度業績予想に対するもので、営業利益を前年度比2.3%減の114億円とする減益予想が悪材料となったのである。

 減益予想にしたのは先行投資が理由だ。同社は決算発表と同時に、介護、医療関連に続く3本目の新たな収益源として、「COCO塾」を中心とする英会話事業を本格展開するとあらためて発表した。12年度はその広告宣伝費などの初期投資がかさみ、営業利益段階で約22億円の影響が出ると見込んだのである。

 ニチイ学館は介護業界最大手であり、病院からの医療事務受託でも最大手。ヘルスケア分野に特化し、教育事業は医療事務員やヘルパーなど、医療と介護の人材を養成する講座が中心だ。ヘルスケアと縁遠く見える英会話事業を3本目の柱に据えることに市場が拒否反応を示すことは、ある程度の予測がついたはずだ。

 にもかかわらず、それを逆なでするように英会話事業への多額投資を断行する“自信”の根拠は何なのか。